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ラズが来てから一ヶ月が経った。
新たな満月の晩、またライラは目が冴えてしまった。傍にはラズが寄り添って眠っている。よく眠っている。どんな夢を見ているのだろう。とても心地が良さそうだった。
ライラはカーテンを開けて窓も開けた。
金木犀の香りがする気がした。ラズを起こそうかと思ったが、すややかに眠っているところに水を差してはいけない。ひとりで家を抜け出すことにした。
胸元のペンダントを取り出すと、またあの時のように色が濃くなっている気がした。
金木犀の元へ急ぐと、満開を過ぎた金木犀の花がまだ少し咲いていた。
そっと膝をつき、紫の石を握りしめておまじないの歌を歌った。
さあっと風が吹いた。
ライラはラズと出会った時のことを考えながら、しばらく金木犀に背をあずけて夜空と月を見つめた。
今日は何も起こらない。けれども不思議な気分だった。
わたしは魔女なのかもしれない。でも本当かしら。いまだに半信半疑だった。それに、魔女についてラズに尋ねても何も教えてくれない。
ラズはライラに、そのままの自分でいることが大事だと言って、それきりだった。
さあっと草が揺れた。ライラがびくりとすると、ラズだった。
「お前、また魔法を使ったな」
と言った。
「どうしてわかるの?」
「俺はお前の使い魔だからな。お前のことなら大概わかる。でもなあ」
と言ったラズの声は少しだけ寂しそうだった。
「金木犀が散ってしまう前に、魔法を使っておかないとって思ったの」
ライラがそう言うと、「そうか」とラズが呟くように言った。
「わたしが本当に魔法使いでも、わたしは金木犀が咲いていないと魔法が使えないから」
「お前が望むならそれもいいかもしれないな。魔法は成功したさ。それでも俺はいつまでもお前のそばにいてやることにした。お前は案外そそっかしいからなあ」
ライラにはラズが何を言いたいのか、さっぱりわからなかった。
それからふたりで夜を散歩するようにゆっくりと家へ戻った。
次の日の朝には金木犀の香りは消えていた。
数日した晩、父が女の人を連れてきた。その人はとても優しい人だった。ライラの振る舞った夕食をとても褒めてくれた。楽しい話をたくさんしてくれた。
それからしばらくすると、その人とは一緒に住むことになった。色んなことを教えてくれるようになった。仕事に行くことはなく、いつもライラと一緒にいてくれる。
父はライラの笑顔が増えたと喜んだ。
嬉しくてラズに話しかけると、にゃあと鳴くだけだ。それでもライラはたくさんラズに話しかけるのだった。ラズはいつまでも大事な大事な友達。
ーおわりー
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