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朝目が覚めると、変哲もない朝だった。少しだけ体がいつもより重い気がした。
ライラは不思議な夢を見たなあと思った。
朝ご飯の支度をしていたら、見慣れない黒い物体が目に入った。猫だった。
どういうことだろうと悩んでいるうちに、父が起きてきて、猫に視線をやった。
「なんだ、ラズはこんなところで寝て」
と言った。
「え?」
「いつもはライラの布団に潜り込んでいるだろう」と言う。
返答にライラが困っていると、ラズがにゃあと鳴いた。
「おはよう、ラズ」と父が言う。
「どうした、ライラ。早く準備をしてしまいなさい」
するとラズはまたにゃあと鳴いた。
戸惑いながらライラは朝ご飯の準備をして、父と一緒に食事を摂った。仕事に行く父を見送ると、ラズに向き直った。
「どういうこと?」
「それより、腹が減った」
ラズは説明してはくれないようだったから、ライラは一旦自分で考えることにした。夢ではなかったのだ。それから、猫って何を食べるのだろうと首を捻った。
「何が食べたい?」
「その雑炊の残りを俺にもくれ」
「わかった。明日の朝からは一緒に食べよう」
そうして、深すぎないお椀にスープをよそり、床に置いた。ラズが美味しそうに目を細めながら食べている。
使い魔のラズは昨晩、ライラが魔法を使ったと言った。
父はラズが居るのを当たり前のようにしていた。
要するにそういうことなのだろうか?
でも仮に、本当に魔法を使って叶ったのだとしても、あれ以外に魔法なんて知らない。本当に自分は魔女なのかなんて思えない。
食事を終えたラズに、ライラは尋ねた。
「本当にわたしが魔法を使ったの?」
「ああ、そうさ。さっきのでわかっただろう」
「でも、わたし……」
「ひとつでも魔法が使えりゃ魔女で十分さ」
魔女。おばあちゃんとおんなじ魔女、わたしが。
「ねえラズ、お母さんがね」とライラは言った。
母は、おばあちゃんは魔女だから嘘つきだと言っていた。自分も嘘つきなのだろうか。不安になった。しかし、その話をラズにすると、鼻で笑われた。
「お前の母親は魔法を信じない人間だっただけさ」
「どういうこと?」
「自分が信じていないことを本当のように言われれば嘘だと思うだろう?」
「お母さんんは、おばあちゃんが魔女だって信じてなかったってこと? でも魔女だって言ってたよ」
「信じる信じないは人の自由さ。だから魔女だって言ったんだろう」
ライラにはよくわからなかった。母は確かにおばあちゃんのことを魔女だと言っていたのだ。信じていないのにどうしてそんなふうに言うだろうか。
「まさかお前、この機に及んで、まだ魔法なんか使えないって言うんじゃないだろうな。こうして俺と話しているというのに」
「お父さんとはお話しできないってこと?」
「ああ、無理だ」
「でもさっき。お話ししているみたいだった」
「みたいだった、だけさ」
どういうわけかいまだによくわからないけれど、ライラは嬉しくなってきた。父がいない時、もうひとりぼっちじゃない。
毎日、父が仕事にいってしまったらひとりぼっちだった。ひとりで家の仕事をこなして寂しかった。学校にも行けなくて、友達もいなくて。
「使い魔はお友達なの?」
「お前が友達と思いたければ、それでいい。俺はお前を裏切らない」
「裏切るってどういうこと?」
「見捨てないってことだ」
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