夜のやさしさ

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 ――満月の晩になったら、これを握りしめてお祈りなさい。  そう言って、おばあちゃんは紫色に透き通ったとっても綺麗な石をくれた。  おばあちゃんは魔女だって、お母さんが言っていた。だからおばあちゃんの言うことは嘘なんだって。  それがどういうことか、ライラにはわからなかった。大好きなおばあちゃんだったから。  やがておばあちゃんは天国へ逝ってしまった。  だから本当におばあちゃんが魔女だったのか、知らないままだ。  金木犀が咲くと幸せが訪れる。  どこかの国の言い伝えだ。本に書いてあった。  おばあちゃんの家の庭には金木犀が植わっていた。  おばあちゃんもおなじようなことを言っていた。だから石を握ってお祈りなさい。  困った時にはきっと役に立つからと。  もう随分むかしのことだ。  おばあちゃんが生きていた時は近所に住んでいたけれど、それから何回か引っ越しをした。  理由は知らなかった。引っ越すというから、まだ子供のライラは父と一緒に新しい地に移り住んだ。だからまだ友達がいない。  そのうちまた引っ越すのかと尋ねると、父はもう引っ越しはないと言った。近所には同じ歳くらいの子供がいなくて、学校も近くになくて、家の仕事を毎日手伝った。本当は学校に行きたかった。勉強したり友達と遊んだり。そんな生活がしてみたかった。  ライラは本を読むのが好きだった。おばあちゃんちにはいっぱい本があったから、前はいっぱい読書をしていた。  しかし、おばあちゃんが亡くなって、おばあちゃんの家を片付ける時に、父は本を全部燃やしてしまったのだった。  どうして燃やすの、と聞くと、「これは良くない本だ。ライラが読まないようにだよ」と父が言った。ライラがそれまでに本から得てきた知識も良くないものだと父は言った。けれども本の内容は役に立つことばかりだったのに。  ライラはその頃、学校にも行っていた。学校の勉強は楽しかった。  おばあちゃんが死んでから学校にはいっていない。行く必要がないそうだ。教科書もすべて燃やされてしまった。どうしてなのか、ライラにはわからない。父は必要がないと言う。それだけしか言わない。  もうすぐ秋になる。どこかに金木犀の木がないかしら、とライラは心配していた。  金木犀の元でお祈りしたら、今の生活が変わるかもしれないと思ったのだ。
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