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後日談13
次の日、緋嶺は目を覚ますと、きびこが目を覚ましていた。
「あ、きびこおは……」
「勝手に名付け親になったってのは、アンタ?」
緋嶺が挨拶をしようと声を掛けた瞬間、ものすごく棘を含んだ声できびこは言い放ってくる。喜屋武が「助けてくれたんだよ」と慌てているが、何となく、二人の力関係が見えて緋嶺は苦笑した。
「助けたって……あたし、色んな場所を見て、憑く所を見つけたいって言ったよね?」
「いやだって、オレたちずっとあの家で育ってきたじゃないか……っ」
ああなるほど、と緋嶺は思う。護る家を失くしてショックを受けた喜屋武と、さっさと次を探そうとしているきびこで、喧嘩をしたというのは、本当らしい。
「まだ言ってるの? あたしたちの存在意義は何? 人間の土地や家を護ることでしょ?」
護る意味がなくなった場所にいつまでもいても、無駄だときびこは言い切る。そう言われた喜屋武は見るからにしょげてしまった。頭から出ている耳も、下がっている。
緋嶺は二人の間にしゃがむと、彼らの頭を撫でた。するとほぼ同時に、二人から手を払われる。息がぴったりの二人に、緋嶺は笑った。
「喜屋武、そこにいた人間のこと、好きだったんだな……。きびこ、お前だって好きだったんだろ?」
そう言うと、きびこはみるみるうちに大きな瞳に涙を溜め始める。そしてそれを零すまいと身体を細かく震わせて耐えていた。やはり緋嶺より年上と言えども、見た目と中身は比例するらしい、と緋嶺はこっそり思う。
「ずっと、あたしたちを大切にしてくれてた人だったの……」
「そっか……」
きびこの震えた声を、緋嶺は優しく受け止める。するときびこは緋嶺の胸に飛び込んできた。抱きしめると、喜屋武もグッと唇を噛んでいたので、引き寄せる。
「辛かったな」
二人の頭をポンポンと緋嶺は撫でた。気持ちは同じなのに、正反対の行動をする二人が、番としてお似合いだな、と微笑ましくなる。
「だからね、キョンキョンと一緒にもっと素敵な所を探そうって……っ」
「うん。それで喜屋武と喧嘩になっちゃったんだな」
緋嶺がそう言うと、きびこは声を上げて泣き出した。本当は辛くて寂しかったのだと、その涙は語っている。
「ああもう。喜屋武はすごく心配してたんだ。もう一人で勝手に行くなよ? 喜屋武も」
お互い尊重しような、と緋嶺は言うと、シーサーの番は目を丸くして顔を見合わせ、緋嶺を見る。きびこは涙が引っ込んだみたいだが、次の瞬間、二人は緋嶺に抱きついてきた。
「ねぇねぇ! 明日の昼まではいるんでしょ? だったらお詫びにお土産あげるから、国際通り一緒に行こっ!」
「うん! それがいい! 緋嶺酒は飲むか? 泡盛とかオススメ!」
ぎゅうぎゅう抱きつきながら口々に喋るシーサーたち。オレンジ色の髪が緋嶺の顔に当たってこそばゆいけれど、こんなに懐かれるのは初めてだったので、嬉しくて無下にはできなかった。
「分かった分かった。お前らのオススメちゃんと廻るから。順番な」
笑顔が戻った二人に緋嶺も微笑むと、喜屋武もきびこも、またぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
鷹使と二人旅にはならなかったけれど、これはこれでいい思い出になったな、と緋嶺はしみじみ思った。
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