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扉が閉められたのを見届け、そっと仕事部屋から続く寝室へと移動する。そして書棚の前で立ち止まった。
目の高さに位置する段の左から3番目。その本を手前に軽く2回倒すと、書棚が横にスライドして隠し部屋が現れた。
入るとすぐに扉は閉まり、真っ暗な部屋の中にポツポツと星のような明かりが点き始める。
ベガは中央へと歩き、床一面に敷き詰められた白く輝く花畑に寝転んだ。
幼い頃に図鑑で読んだ、遠い惑星に生息するという花を模した造花で、ベガはその花に付けられた「花言葉」というものに感動し職人に作らせた。
「心の安らぎ」という花言葉の通り、ベガはこの部屋に来ると気持ちが落ち着くのであった。
天井には無数の星と星屑の川が輝いている。
本物の星は見ようと思えばすぐにでも見られるのだが、このこじんまりとした空間に身を置くのが気に入っていた。
10分程休んだところで、また仕事部屋へ戻ると、お茶を用意して待っていたのは70歳になる、もう一人の執事、カストルだった。
白髪をきれいにまとめ、鼻の上にちょんと置かれた眼鏡は近くの文字を見るときにだけ使われる。
ベガの姿を見ると穏やかな笑顔で出迎えた。
「あれ? レグルスは?」
「途中、部下に呼ばれたようなので代わりに私が。さあ、ベガ様こちらへ……」
カストルはお茶と甘い菓子を応接用のテーブルに置き、ベガをソファへ座らせた。
ベガの面倒を幼い頃から見ており、両親を亡くした彼女にとって、彼は親代わりのような存在でもあった。
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