月をあつめて

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 とある住宅街にある、小ぢんまりとした公園。  夜もとっぷりと沈んだ、そこには高校生の女子がひとりいた。  園内の滑り台と、ブランコだけの遊具を見守るように、木製のベンチがふたつ、設置してある。  ベンチの背もたれに寄りかかり、女子高の制服姿の女――ルア――は、ブルーの小瓶を膝の上に抱え、まんまると太った月を眺めていた。  その月とは対照的に、ルアは細面だ。顔だけではない、長い黒髪が垂れる肩も、その青い瓶を抱える指も、プリーツスカートから伸びる脚も細かった。 「何やってんの。女の子ひとりで危ねぇな」  自転車侵入禁止のため、ジグザグに立てられた、黄色い鉄製の柵に何度も脚をぶつけながら、痛がる様子もなく青年がやってきた。  咥え煙草を地面に落とし、足で踏みつけ、消火したのを確認すると、男はジャケットの胸ポケットから携帯灰皿を出し、そこへ投げ遣る。  そして、ルアの前に立ちはだかった。  彼女は男――朔哉――に見向きもせず、ただじっと月を見ている。 「それ、酒?」  彼はルアの膝に乗せられた500㎖ほどの瓶を指差す。そこにはどこかの国旗に描かれた太陽のような絵が刻まれていた。 「ムーンボトルです」  ルアは淡々と応える。 「中身はミネラルウオーターです。こうして月光浴させてムーンウオーターを作ってるんです」  太陽柄のあるボトルなのに、ムーンボトルとは……朔哉は少しおかしそうに笑った。 「水かよ」  彼はまた煙草を取り出し、風もないのに手で囲い、ライターで火を点けた。 「オマエいくつ」 「17です」 「酒飲みに行かねえ?」 「無理です」  朔哉は苦笑いと共に、煙を苦そうに吐く。 「ムーンウオーター、お酒で割っても効果ありますよ」 「その水、何の役に立つの?」 「浄化、運気UP、その他諸々」 「ふーん。運気ねえ」
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