1人が本棚に入れています
本棚に追加
母親とこの家を出て行ってしまったから。
そのことを何も悲観などしていない。
ただ親父とふたり暮らしというのが窮屈だった。
何故なら――。
不意にノックもなしにドアがバタン! と開けられた。
そこには酒に酔うでもなく、無表情の親父がいた。
「ルア、今日やったテキスト見せなさい」
「ちょっと待って。後ででいいって云ったじゃん。私、着替えたいしお風呂入りたいし……」
「いいから見せなさい」
四の五の言わせない物言いの親父。私は仕方なく学生鞄から現国と物理のテキストを出す。
親父は受け取った冊子をパラパラとめくる。
「何だ。何の書き込みもしてないじゃないか」
「頭に入ってるよ」
「物理のプリントは? いつも配られるだろう」
「先生、配らなかったよ」
「物理はプリント授業だろう? 配られないはずがない」
「今日はテキスト中心だった」
親父は私を射抜くような目で見た。
「……最終コマの物理は、いつも9時40分終わり。いつもきっかりだ。ちゃんとしてる講師だからな。9時51分の電車に乗って、歩いて……」
ああ、サボったのバレてるな――。私は身をすくめた。
「月曜日は10時25分には帰宅する。それが、今は10時42分。どこをほっつき歩いてた!?」
バシッ!
顔に痛みと熱を感じた。
親父の平手打ちが飛んできたのだ。
「……ごめんなさい」
私は謝る。一応。素振りだけ。
「そんなんで国立大目指せると思ってるのか!?」
「……すみません」
「3日メシ抜き」
「……はい」
「財布」
「……はい」
私は鞄から財布を取り出す。親父はそれを奪う。
最初のコメントを投稿しよう!