ガイアの天秤

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 その男はアラブともアジアとも見分けがつかない肌具合で、細長い顔つきは欧州人を思わせた。全身に白い衣装を纏っている。 「なぁに、おじさん?」  少女が不思議そうな顔をすると。 「そなたはあまり満ち足りた人生ではないように見受けた。ならば願いを言うがいい。私がそれを与えよう」 「え? 本当?!」  大きな瞳をいっぱいに見広げて少女が男を見上げる。 「たくさんお願いしていい?」 「構わないが、多くの願いは何処かで多くのものを失うかも知れない。得るものと失うものは天秤で測るが如く常に当量なのだ」 「そうなの? つまんなーい。皆んなが幸せになるのがいいなぁ」  口を尖らせ、少女がじっと男を見やる。 「……ならばそなたに問いたい。この世界全体を幸せにするには、どうすればよいと思う?」 「んーと、そうねぇ?」  少女は真っ青な天を仰いで少し考えた。そしてこう言った。 「皆んな、明日食べるパンに困らなければ幸せになれるんじゃないかなぁ」 「そう思うか」  男が問い直すと。 「うん! きっとそう思う。お腹が空くとケンカするし、食べ物がちゃんとあれば皆んなもっと仲良くなれると思うから」  少女は笑顔で大きく頷くと、男は右手をすうっと上に挙げ『パチン』と指を鳴らしてみせた。 「少女よ、お前の願いは与えられた」 「え? 何?」  きょとんとして見直すが、そこに男の姿はもう残ってはいなかった。 「変なの? ええっと……何だったけ。まぁいいや」  少女は再び、ガラスケースの向こうに映るテレビ画面に目を戻した。 《……以上、温暖化によって緑化した砂漠の一部や元の凍土帯を小麦の耕作地に利用する取り組みについてでした》   ニュースキャスターが神妙な顔つきで『次のトピックです』と語った。 《国連の調査によって、は先進国のみならず発展途上国にまで及んでいることが初めて確認されました。専門家によると2050年には最悪で……》 「あーあ、今日は日本のアニメやらないんだなぁ」  少女は路上から立ち上がり、膝の砂を払って家へと戻っていった。  完
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