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「日本へようこそ、アンドラ司令官殿。私が東郷です」
互いに苦虫を噛み潰したような表情で、東郷がアンドラと握手を交わす。
「早速だが」
アンドラがモニターに視線を移す。例の『VIPルーム』をであらゆる角度からリアルタイムで撮影しているものだ。
「……『いなくなった』と?」
モニターの向こう側に人影はない。
「ええ、いつの間にかね」
大袈裟にため息をついて東郷が肩をすくめる。
「ガイアは人間じゃあない。閉じ込めなんて無意味だと分かってはいましたけどね……頭では」
「彼は人の願いを与えるためにやってきたと言っていた」
用意された大きな椅子にアンドラがどっかりと座り込む。
「つまり誰も何も望まないのであれば、彼がそこにいる理由もまたないのだろう」
「なるほど」
ガイアが何処へ消えたのか。それを知る手段はない。彼はまさしく『違う位相』からきたのかも知れない。
「ところで、制服組のあなたならすでに知っていると思うが」
アンドラが東郷に一瞥をくれる。
「無論。『いつの間にか火薬に火が着くようになっている』と部下から報告がありました。多分、『元の位相』とやらに戻ったんでしょう」
よいしょ、と言いながら東郷がアンドラの向かいに腰掛ける。
「やれやれ、厄介な話だ。何れ彼は『自分がいたという位相』すら元に戻してしまうかも知れん。その方が世界の幸せだと考えるならば。不思議な物だよ『位相』という世界観は」
「位相……確かに誰もが経験のあることではありますよね『あれ? ここに置いたはずのものが、どうしてここに』とか『ここって昔はこんな感じじゃなかったような』とか。日本ではそういうのを『狐に化かされた』っていうんです。フォックス・イリュージョンですね」
「はは! 確かに砂漠でもフォックスはとてもファンタジーでミステリアスな生き物だ。もしかしたら地球上の全員が『化かされた』のかもな」
少し遠い目をして、アンドラが肩を軽く揺らす。
「実は『化』という字には日本語で『教える・導く』という意味もあるんです。『教化』というのですが。もしかしたら彼は我々に『得るものがあれば失うものがある』という、ごく当然のことを改めて示したんじゃないのか……って思うんです。何となくですけどね」
東郷が立ち上がって、手を差し出す。
「さ、空港までお送りしますよ。どうやら、この茶番劇も幕が降りたようなので」
――某国。とある貧民街。
汚れた服を着る一人の少女が路上に座り込み、じっとガラスケースの向こうに映る大きなテレビに見入っている。
「そこなる少女よ。尋ねたいことがある」
少女の背後に現れたのは、上背があって華奢な男だった。
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