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仕事中の食事は採餌だ。
仕事という檻の中で飼われて食う飯だから採餌。飼い慣らされたつもりはないにせよ、実際賃金という手綱を握られているのは事実で、自分はそれを感情や思想任せに反故にするほど無謀な人間ではない。もういい歳だし、冒険せず、同じことを毎日繰り返して淡々と時間を消化していくのが良い。そんなようなことを漠然と思いながら車を走らせ、いつの間にか忘れている。
梁川恩はエンジンを切ったばかりのトラックを降りた。少し生臭く暖かい空気と濃い紺色の宵闇を、頭から爪先まで纏う。座りすぎた腰の怠さが煩わしい。腕時計を巻いた左手もやけに重く感じる。橙色の薄暗い照明を頼りに、煌々と輝く自動ドアを目指す。
毎週月曜と木曜にこの道を通る。卸業者から預かった荷物を、早朝あちこちの店へ配送すり仕事をする、道すがら。一日で百キロメートル前後の走り、日によっては三百キロメートルを超えることもある。幾度か配送ルートの変更はあったものの、不思議と木曜日だけはルートを外れたことがなかった。
そして、二十時といえばいつもここだった。混まない、名物もない、街外れの小さなサービスエリア。高速に乗ってから一番最初に立ち寄る場所だった。本格的に仕事に入っていく前の気分転換も兼ねている。
自動ドアの開いた正面に一店舗経営の小さなフードコート、向かって右に交通情報を伝える電光掲示板がある。餌を注文して待ってる間、それを眺めることもあった。今日はまっすぐフードコートに向かう。
「やっぱすげえ不自然、髪」
そして、レジを陣取る派手な化粧の女性店員を指差して言った。
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