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「しょうがないんだって、就活あるし。あーしもミルクティーブラウン気に入ってたんだからマジ言うなって」
店員は軽く舌打ちする。先週から黒髪になった。それまでは脱色した薄ベージュだったから、相当なギャップだ。バイトだとしてもそれはどうかと思うような髪色だったから、就職活動なんか無理に決まっていた。
「それにしたって墨塗ったみたいな黒だよなぁ、不自然すぎてヤベェな」
梁川はちょっと笑いながら、いつもの、と言いスマートフォンのを取り出す。彼女はつけ睫毛の派手な顔でむすくれたままレジを打ち、スマートフォンの画面にバーコードリーダーを押し付けた。
「黒髪とか中学以来だもん。あ、高校入学してちょっと以来かな? 似合わなすぎ」
「まぁ、見慣れないだけじゃん?」
運転が仕事のせいか、彼の話し相手は出先の他職種の人間が多かった。仕事始めは暮六つ、仕事終わりは明け六つという生活は、さらに限られた人間との会話ばかりになる。
距離間も近しくなるが、レジ打ちをしているこの就活生とは、賓主互換な良い関係が続いていた。わざわざ呼ぶことはないが 、一応名前は知ってはいる。野手崎芽衣という。
「ねー、就活ってどんな感じ? ヤバい?」
「それ俺に聞く?」
半笑いで返した。高卒であること、年も一回り以上差があることは、いつか話したことがある。
「だってさぁ、全然イメージわかないじゃん、バイトとはまた違うんでしょ?」
「違うんじゃねぇか? っていうかまだ三年っつってなかったっけ? もう就活?」
「早いんだよ今は何でも。早いともう四年入ってすぐくらいに内定出たりするって」
「えー、それって逆にアリなの?」
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