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「ああ、去年だっけ? あれのせいで下道に誘導されて、納品遅れるかと思ったんだよなぁ」
工事がどれだけ早くなるかはわからないが、これまで通り気を引き締めて運転するより他ない。
十分足らずで二品を平らげ、投げるように下膳して店を出た。
厠は外にある。建物に沿った一番奥で、蛍光灯一本の迎え火を灯していた。数十メートルとはいえ、トラック用の駐車場からだと少し遠いのがこのサービスエリアの不満な点だった。途中にある照明も薄暗くて、何となく足早に行き来していた。それでも昼間は寛ぐ人もいるのか、厠の手前、橙の照明の下に、年季の入った木製のベンチが一台置かれている。
梁川の足が一瞬止まったのは、今日に限ってそのベンチに誰かが座っていたからだった。
変な声が出そうになった。膝に肘を置いて腰掛けている。暗がりながら、佇まいと風体を見て男なのはわかった。その正面に車が停まっていた。ここに来た時にはなかった車だった。
(うわ、高級車)
光岡自動車のヒミコ、パッションレッドメタリック。馴染みの服屋の店主も同じものに乗っていたからすぐに目がいった。ベンチの男の車だろうと思った。
その違和感には梁川の日常に突然飛び込んできた不釣り合さも染みている。用足しは外すわけにはいかないから、物見遊山で傍を通り過ぎることにした。
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