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若い頃は甚助が過ぎて、海千山千の安い尻を探り週六でクルージングスペースに出入りしていた。
その場限り、深入りしない、用が済めばそれで終わりという関係が楽で良かった。飲みに行きたければ仲間のいるバーに行ったし、達引なんか惚れた腫れたの代わりに嫌というほどやってきた。
これでも苦味走ったいい男と持て囃されてきたわけで、胸の痛みはそうやって誤魔化してきた。
長距離のドライバーをやっていた頃は、仕着文庫ひとつで各地を飛び回っていた。動く長持と言っても過言ではないくらいに。
話す相手もなく、ラジオや無線を頼りに人と関わってきた。両思いだったのは左手に巻いた愛用の時計くらい。今は定期的に顔を突き合わせて話のできる相手ができ、気になる存在までできた。過去を思えば、誠に有難い話だと思う。
(ま、機会があれば声掛けてみるか)
見徳が当たれば、というくらいの感覚であった。今まで当たったところで数百円のご縁しかない代物だ。自分の運を高みの見物くらいの感覚でいたのだが。
木曜日に眼福を得て二ヶ月弱。聖夜が間近に迫り、梁川の頭の中は仕事納めでいっぱいになっていた。暮れ正月に丹次郎は現れるだろうか。その存在は既に仕事の息抜きの域を越え、梁川の胸に常時停滞するものとなっていた。世間の喜ぶ長期連休は、場合によっては目の上のたんこぶにもなりうる。
木曜日の紫陽花青の外気。寒さが肌に染みる。トラックを降りた梁川は、今日も男がそこにいることを確認し店内に入った。
もう話題も出尽くし、芽衣にも男の話をすることはなくなっていた。
「ごっつぉさん」
「あーい、気ィつけてね」
ヒラヒラと手を振りながら外に出て、厠兼お楽しみの時間。
いつもと違ったのは、男がベンチの後ろにある自動販売機の前にいたことだった。
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