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 バケモノが顔を上げた。夕晴はその隙を見計らってバケモノを振り払い、私の隣にやってくる。私を守るような姿勢を取って、バケモノを睨んだ。私の瞳から別の涙が流れた。  血でまみれた口元。鋭い牙。折れてしまいそうなほど細くなった体。やせこけた頬。けれど、端正な顔つき。サラサラな髪。赤く染まった瞳。私はそのバケモノを知っていた。あれは吸血鬼だ。そして、すっかり痩せ切ってしまっているがあれは快斗くんだった。 「快斗……?」  夕晴は口をポカンと開けてバケモノを見た。正真正銘、私の初恋の相手の快斗くんだった。 「快斗くん……何で……どうしたの、その姿」  バケモノは何も言わない。言葉を理解しているのかも、私たちを認識しているのかどうかも分からない。ただじっと動かず、私たち二人のことを眺めていた。でも自分が快斗であることは認識しているようだった。名前を呼ぶたびに、ピクっと体が反応している。  赤く染まった瞳は夜中によく映えていた。星空と同じくらい綺麗だと思ってしまった。その口元は私たちの血で汚れていながらも、一瞬ながら何もかもが儚く、綺麗だと思ってしまった。  私はじりじりと体を動かした。腰が抜けてしまったから歩くことはできないが、段々と力が入るようになったことで手を使って前に動くことはできた。 「おい、楓──」 「快斗くん!」
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