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 私は夕晴の言葉を無視して快斗くんに近づくと、しばらく見つめ合ってから優しく彼を抱きしめた。「楓!」と後ろでまた襲われることを危惧した夕晴の声が聞こえたが、そんなのどうでもいい。ずっと探し求めていた快斗くんが、姿は変わってしながらもまた私の前に現れてくれたのだから。 「快斗くん、ずっとずっとずーっと会いたかった……!」  快斗くんは動かない。さっきみたいに私の血を吸おうともしない。私のことを認識してくれているのだろうか。分からない。でもそうだと信じたい。 「覚えてる? 隣の家に住んでた楓だよ。よく小さい時に遊んでもらってた楓。ずっと会いたかったんだよ」  快斗くんは何も言わない。温もりも感じられない。彼はもう人間ではない、ということが伝わってきた。 「快斗くん、ねぇ何か言ってよ」  私は快斗くんの顔を見た。快斗くんはじっと私のことを見つめていたが、彼の瞳の奥には映っていないことが伝わってきた。 「快斗くん……」 「やめろ楓。もう行こう。覚えてないんだよ、俺らの事」 「でも」 「大人しいうちに、早く帰るぞ。また襲い掛かってくるかもしれない」  夕晴は私の腕を握ると、私を上に引っ張り上げた。もう足にも力が入り、一人で歩ける状態になっていた。首から垂れ流れていた血はもう止まっている。私は強引に夕晴に連れていかれながら、名残惜しそうに快斗くんを見つめた。 「バイバイ、快斗くん。また会えるといいな」  私は快斗くんに別れを告げると、自分の意思で彼に背中を向けて歩き出した。快斗くんがまた暴走しないように、夕晴に支えられながら少し早歩きで立ち去る。
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