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この掟がこの小さな町に誕生したのは、遥か昔のことらしい。生まれた時から、耳にタコができるほどに町民たちは聞かされている。
ここに生まれた私も、何度も親や近所の人たちから聞かされていた。夜に絶対に一人で出歩いてはいけないよ。迷子になって、家に帰れなくなっちゃうからね。
「楓、絶対に掟は破っちゃいけないからな」
「うん、絶対に守る!!」
「よし、いい子だ」
「快斗くんもね!」
「うん、約束」
生まれてからずっと家の隣に住んでいる快斗くんにも何度も同じことを言われた。他の人に言われたら「分かってる」「知ってる」と言っていたけれど、快斗くんには従順な態度を見せた。多分、快斗くんは初恋の相手だったからだと思う。あの時の私は大人びていて、頭が良くて、カッコよくて、優しい快斗くんに恋をしていたのだ。
そんな快斗くんは、もういない。
私が10歳の時、突然消えてしまった。まだ高校二年生だった。小さな町だから、全員で協力して快斗くんを探したが、それでも見つからなかった。連絡もつかなかった。
快斗くんは、神隠しにあったのだ。
「掟を破ったからだ」
とある町民がそう言っているのを聞いたのは、公園で遊んでいる時だった。大人たちは子どもたちが遊ぶのに夢中でこちらの話なんて聞いていないと思って、気が緩んでいたのだろう。私だけは静かに耳を澄ませて、大人たちの会話を聞いていた。
「突然消えるなんて──誘拐されたのよ、あいつらに」
「ったく、絶対に夜中に一人で出歩いてはいけないという掟があるというのに!」
夜、決して一人で出歩くべからず。破ったら道に迷って、家には帰れなくなる。そういう理由から夜中に一人で家を出てはいけなかったのに、誘拐されたとは一体どういうことだろう。知らない話に、私はよく耳を澄ませた。
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