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「カリギュラ効果でしょう。子供はすぐにルールを破りたくなる。母親がダメだって言っているのに何度も繰り返してしまうことと同じよ」
「子供って言ったって、快斗は高校生だぞ? 学校でも優秀な成績を収めている。あいつがそんなことをするはずがない。一体、どうして急に……掟を破るなんて馬鹿な真似を……」
私は砂場で泥団子を作りながら、じっと耳を傾けた。手は泥で真っ黒に染まっていた。
「いつまで俺たちはあいつらに怯えて暮らさなきゃいけないんだ! もううんざりだよ、こんなバケモノが住んでる町!!」
「ちょっと声が大きい! 何も知らない子供もいるんだから、静かにしなさい!!」
おじさんはハッとなって辺りを見渡した。幸い、子供たちは遊ぶのに夢中でおじさんの大声に気づいていない様子だった。おじさんはホッと胸をなでおろした。私だけがその会話を聞いていた。
「だって、考えてみろよ。おかしいだろう? ここは人間の世界だ。あんなバケモノが暮らしていい世界じゃない!」
──バケモノ?
「バケモノ?」
隣で一緒に泥団子を作っていた夕晴が不思議そうに言った。夕晴は私の家の目の前に住んでいる同い年の男の子で、こうして公園で一緒に遊ぶくらいには仲が良い。ぽかんとする夕晴の態度に、私はハッとした。無意識で呟いていたらしい。私は首を横に振った。夕晴は何も知らない。快斗くんが失踪した理由も、大人たちが隠しているバケモノのことも。
「夕晴、泥団子じゃなくて砂のお城作ろう」
「えー、泥団子の方が楽しいじゃん」
「砂のお城が作りたいの!」
「わかったよー」
何とか話を反らして、私たちはせっせと砂のお城を作り始めた。
バケモノ。まだお母さんとお父さんに絵本を読んでもらっていた時に出てきたのを覚えている。おっかない見た目をしていて、人間を襲う悪い奴。バケモノ。バケモノが快斗くんを誘拐したの?
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