6/15

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
◇  その日、私の頭はすっきりと冴えていた。目覚めも良かった。ぐっすり眠れたらしい。興奮して寝れないかと思っていたが、どうやら違ったようだ。私は快斗くんと同じ制服を着て、いつもみたいに長い髪を結うと朝ご飯を食べて家を出た。家の外には自転車に腰掛けた夕晴が待っていた。 「遅い」 「別に約束してないし」  痛い所を突かれて、夕晴はぐうの音も出ない。私たちは別に付き合っていない。でも何となく夕晴が私に気があることに気づいていた。夕晴は自転車を押しながら先を歩いていた私に追いつくと「おはよ」と少し拗ねた口調で言った。 「おはよう」  私もそう返す。すると突然、夕晴が足を止めた。私は振り返ると、怪訝な目で夕晴を見る。 「どうかした?」 「楓、何かあった?」  私は眉をピクッと動かすと「何で?」と聞き返す。 「だって、何か変だから」 「いつもと変わらないと思うけど」  「おはよう」の一言だけで、気づくか普通。 「だっていつもと挨拶の感じが違うもん」 「そう?」  私は再び歩きだすが、夕晴は立ち止まったまま私の背中を眺めた。 「もしかして、今日は快斗がいなくなった日だから?」  自然と足が止まった。背後から自転車の車輪が回る音が聞こえる。夕晴が隣に立って、私の顔を覗き込んだ。 「図星だ」 「毎年のことでしょ」 「いつまで待ってんの?」  ぶっきらぼうにそう言った夕晴を、私は睨むように見た。 「どういう意味?」 「えっ、いや」  表情に怯んだのか、夕晴は弱々しい口調になる。 「だって、考えてみろよ。もう7年だぞ。7年間、音信不通。おじさんたちも探してるっぽいけど、見当たらない。それってもう──」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加