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◇
その日、私の頭はすっきりと冴えていた。目覚めも良かった。ぐっすり眠れたらしい。興奮して寝れないかと思っていたが、どうやら違ったようだ。私は快斗くんと同じ制服を着て、いつもみたいに長い髪を結うと朝ご飯を食べて家を出た。家の外には自転車に腰掛けた夕晴が待っていた。
「遅い」
「別に約束してないし」
痛い所を突かれて、夕晴はぐうの音も出ない。私たちは別に付き合っていない。でも何となく夕晴が私に気があることに気づいていた。夕晴は自転車を押しながら先を歩いていた私に追いつくと「おはよ」と少し拗ねた口調で言った。
「おはよう」
私もそう返す。すると突然、夕晴が足を止めた。私は振り返ると、怪訝な目で夕晴を見る。
「どうかした?」
「楓、何かあった?」
私は眉をピクッと動かすと「何で?」と聞き返す。
「だって、何か変だから」
「いつもと変わらないと思うけど」
「おはよう」の一言だけで、気づくか普通。
「だっていつもと挨拶の感じが違うもん」
「そう?」
私は再び歩きだすが、夕晴は立ち止まったまま私の背中を眺めた。
「もしかして、今日は快斗がいなくなった日だから?」
自然と足が止まった。背後から自転車の車輪が回る音が聞こえる。夕晴が隣に立って、私の顔を覗き込んだ。
「図星だ」
「毎年のことでしょ」
「いつまで待ってんの?」
ぶっきらぼうにそう言った夕晴を、私は睨むように見た。
「どういう意味?」
「えっ、いや」
表情に怯んだのか、夕晴は弱々しい口調になる。
「だって、考えてみろよ。もう7年だぞ。7年間、音信不通。おじさんたちも探してるっぽいけど、見当たらない。それってもう──」
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