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◇  親が寝沈まった後、私は一人で家を出た。真っ黒な服装に深くフードを被り、右手にはナイフを、左手には懐中電灯を持ち、夜を歩いた。この町には掟がある。夜、決して一人で出歩くべからず。さもないと、家には帰れなくなる。正しくは、バケモノに襲われてしまう。  見回りがいなくなる時間は知っていた。深夜を過ぎた午前2時。この時間は丑三つ時と言われ、恐れられていたから見回りを終えて各々家に帰るのだ。だから本当はフードなんて被らなくても誰にも会う心配がないから大丈夫なのだけれど、一応誰かに会った時の為にもフードを深く被った。暗闇に溶け込んだ私を、誰も見つけられない。  夜、決して一人で出歩くべからず。  私を見つけられるのはきっと、バケモノだけだ。さあ、早く出てこい。こっちはいつでも準備はできている。  ザァっと辺りで風が吹いた。時計を見る。午前2時10分。掟に縛られたこの町は、東京のような都会とは違って静まっていた。コンビニだって閉まっているし、車一台すら走っていない。ただ川のせせらぎと風で木が靡く音しか聞こえなかった。  初めての夜。初めての一人。初めての掟破り。  満月が闇に溶け込んだ私を見つけたように照らした。空はいつも見る星空とは比べ物にならないほどに綺麗だった。澄んだ空気と光のない世界でより一層際立って見える。 「綺麗」  快斗くんも、こんな星空の下で神隠しにあったのだろうか。バケモノに襲われたのだろうか。  ねぇ、快斗くん。教えて。どうしてあの日、一人で夜中に外に出たの?  どうして真面目な快斗くんが掟を破ったの?  あの日、一体何があったの?  私にも教えてよ、快斗くん。  もう快斗くんと同い年になっちゃったよ?    快斗くん、聞こえる?  快斗くん。ねぇってば。  返事してよ。 「っ──」
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