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4 「山猫」165号機
「そろそろだな」
ベルナドは地図を見て、山猫の速度を緩める。シムリア国境は遥か後方、指示された合流点は244ポイントだ。
「このあたりは私が子供の頃に避暑に来ていたので少しわかります」
相変わらず求めもしないのにしゃべる女だ。
「祖父王の代に森を開き、南の採木場から大量の材木を王都に運んで宮殿を建てたそうです。高原の牧草地は秋の刈り取りが早く、人も牛も半年いません。いい合流ポイントでしょう」
「王女様は結局お休みになりませんでしたか」
「だから揺れる車内じゃ眠れないって言ったじゃない」
王女様はもっとお行儀のいい人種と信じていたが、俺の王族観が古いのか、とベルナドは思った。
暗号文を確認し、目印の小川を渡って山猫を停める。まだ迎えは来ていない。これで能天気な王女様ともおさらばだ。奴らは揺れない高級車で王女を迎えに来るだろうか。
「あっ、水車があります。水を飲んでもいいですか?」
「いってらっしゃい、王女様」
エルダは笑顔で両腕で機体からはい出す。ベルナドはエンジンを停め、その後から身を乗り出した。
あたりを煌々と月が照らす。高原の涼気。いい夜だ。
我慢していた煙草に火をつけ、一息で吸う。うまい。
王女様をスルドに引き渡し、戦争も終わる。厳しい尋問があるかも知れないが、救出した王女様の口利きを期待しても罰は当たるまい。
周囲を見渡し地形を観察するのは、長年の騎甲車乗りの習慣だ。
広がる草原、前方は湿地。山猫の脚に不向きな地形、遮蔽物は東の水車小屋だけだ。
西に黒寿杉の森、その奥に南北の丘が二つ見える。丘の間は街道が走っているようだ。満月で夜間視は良好。
二つの丘はここを狙い撃つ絶好のポイントで――。
死地?
悪寒と長年の経験が、同時に急報を鳴らした。
「王女様、すぐに戻れっ!」
川で髪を濡らしていた王女が、不思議そうに見つめる。
「何かあったのですか?」
「説明は後だ。死にたくなかったら、山猫に乗れ!」
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