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6 「山猫」165号機
「もう死んだかと思いました」
森の中を疾走する山猫の中で、王女がため息をついた。全速とは言え満月で丸見えになる草原を、無防備に直進した。
「あの射程、砲の威力。灰鼠だな」
「なぜ王女のいる車両を味方が砲撃するのですか?」
「レムヒが裏切ったんだ。王女を暗殺してシムリアに責任をかぶせ、戦争を続ける気だ」
「あの車両、すごい砲を持ってますよ」
「灰鼠は鈍重だ。山猫の砲は弱いが動きは速い。一対一の近接戦なら仕留められる」
「なぜ一両とわかったのですか?」
「二両以上なら初めから高台に分かれて陣取る。こっちが手前に逃げても奥に逃げてもお陀仏だ。橋に近い北の高台から撃たれたが、手練れの車長なら山猫が奥に逃げるのを見越して南に移動する。そこに賭けただけだ」
月灯りを頼りに、ベルナドは森の中で山猫を前進させる。
「そのネズミさん、街道で待ち伏せていませんか?」
「大いにあるな。王女様は車長のセンスがある」
「ありがとう。では減速しては?」
「灰鼠は重い砲塔を旋回して撃つ。山猫に至近で背を取られたら灰鼠の負けだ。街道の一本道、前後どちらから山猫が飛び出すかわからない状況で待ち伏せするのは阿呆な車長だ」
「そういうものですか」
「とはいえこっちが阿呆なら、待ち伏せを恐れて減速する。距離が遠いほど射程の長い灰鼠が有利だ。俺が灰鼠の車長なら山猫がスピードを落とすことに期待して一目散に遁走し距離を稼ぐ」
森が切れ、山猫が街道に躍り出た。急停止と同時に九十度旋回する。視界に灰鼠の姿はない。
「どちらに逃げたのでしょう」
「南だ」
ベルナドが言い切った。
「今度は奴らが隠れる番だ。道路から外れられない灰猫が身を隠すには採木場しかない。全力で追って倒すぞ」
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