7 「灰鼠」23号機

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7 「灰鼠」23号機

「山猫は街道に出るとき、減速してくれるよね?」 「たぶん無理。読まれていると思う」  全速力で街道を走る灰鼠の中で、カナタは嘆息する。 「逃げても追いつかれる。どこかで撃破しないと」  街道の両脇は湿地と雑木林。山猫なら走れるが車輪の灰鼠は走れない。 「防風林の先に廃止された採木場がある。そこで山猫を待とう」 「どうして採木場なの?」 「木を積むコンテナや車両庫の古い建物がある。今度はこっちが隠れて戦わないとやられるから」  カナタは元採木場の空き地に入ると車体の上に立ち、遮蔽物の位置を確認した。  敵はここでの待ち伏せを、予想するはずだ。  空き地にはコンテナが二列に並び、細い丸太が地面に積まれていた。出荷を待つ間に廃業し、放棄されたのだろう。縦のコンテナ列の間に灰鼠がじゅうぶん入れるスペースがある。その後ろは、かつて長い貨車が止まったはずのおんぼろ車両庫が横向きに塞いでいる。  さて、どう車体を置くか。  カナタは、美しい月を見上げる。  満月は電灯のない夜道を無灯火で人が歩けるほど、明るく照らす。軍学校に入る前、街灯にあふれた王都に住んでいた頃は月の明るさを知らなかった。 「父さん。鼠と猫、今夜の月はどっちに微笑むかな」  不意に月光が陰った。星夜を叢雲が移動し、風が吹くたびに月の灯し火を揺らす。すぐに暗夜にはならないが、不安定な光になるだろう。  カナタはしばらく無言で夜空を見上げていた。 「カナ……どうするの? 私たち、初陣で死ぬとかないよね?」  サキが不安そうに尋ねる。カナタは視線を下ろし、決断を告げた。 「コンテナ列の間に灰鼠を縦列させ、車体を隠します。ラームさん、敵が頭を出した瞬間、今度こそ一撃で仕留めてください」
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