第四章

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17.「分からないまま」*真奈  スープもサラダも、すごく美味しいと思った。  特にコンソメスープ。すごく好きな味で、口に入れた瞬間、わ、と思った。  ……母さんが作ってくれたスープに似てたから、なんだか懐かしくて、ふ、と嬉しくなった。 「それ、好きか?」  俊輔の声に顔を上げると、なんだか少し、笑ってる。 「あ、うん。……好き」  そう言うと、そんな嬉しそうに飲むか?と、からかわれるみたいに言われるけど。  俊輔にしてはなんだかとっても穏やかに言ってるから、嫌な気持ちはしなくて、頷いた。  久しぶりの外食。  外の世界と離された一人の世界じゃない。まあ相手は、俊輔だけど。  ふと、気付くと、周りに座ってる女の子たちの視線が、俊輔に向いてることに気づく。俊輔は気づいてないのか、慣れてて気にならないのか、分かんないけど。  ……やたら目立つもんね。……ちょっと怖いと思うんだけど。怖くないのかなぁ? オレがそう思うだけ?  女の子って、ちょっと悪っぽいのに惹かれるって聞いたことがあるような。……知らないけど。  こないだの集会の時も思ったけど、ほんとに、そういう相手には困ることはなさそう。 「真奈」 「ん?」 「ここまで来て、バイク乗るのきつかったか?」 「ううん、大丈夫。もうオレ、大分普通だと思うよ?」 「今日午前も出てたしな。急に動いても……」 「出てたって言っても、車で連れて行ってもらって荷物とってすぐ帰ってきただけだから」  大丈夫だよと伝えると、きつかったら言えよ、と言われた。  きついって言ったら、どうするんだろ。ここにもうバイクで来てるのに。  と、なんだか不思議に思って、聞いてみることにした。 「……きついって今言ったら、どうするの?」 「和義に車で来てもらってオレらは車。和義はバイクで帰ってもらう」 「ぇ。西条さん、あのバイク乗れるの?」 「ああ」 「……スーツで??」  うわー。なんか、すごく違和感。  俊輔はオレの複雑な顔を見て、ふ、と笑った。 「バイク乗る時はスーツは脱いでくると思うけどな?」 「そう、なんだ」  ……そういえば、スーツじゃない西条さん、見たことない。  ということに、今更ながらにびっくりだけど。 「あ、でも、きつくないから大丈夫だから」  そう言うと、俊輔も頷く。  こんなとこまで車で迎えに来てくれて、バイク持って帰ってくれるって。  西条さんのお仕事って大変。……もう、仕事って感じじゃないのかなあ?   そういうのが普通の、俊輔と西条さんの関係って、オレにはよく分かんないけど。  そういうものなのかなあ……。そういえば、テレビとかで見る、「じいやさん」は、「ぼっちゃん」とか「だんなさま」とかを最優先してたような。そういうイメージで見てればいいのかなあ……。謎だけど。    そんなことを考えながら、食事の続き。  サラダとスープを食べ終わる頃に、ちょうどよくパスタも運ばれてきた。 「……美味しい」  なんかすごくおいしく感じる。  ……外だから? ふと、これからもし学校とか行くなら、外でお昼ご飯とか食べれるのかなと思いついて、聞きたくなった。 「あのさ、俊輔……」 「ん」 「オレ、本当に、学校行って、いいの?」 「いいのって。……行けなくてもいいのか?」  返された質問に、それは嫌だけどと思って、咄嗟に何とも言えず、黙って俊輔を見つめていると、俊輔は苦笑いを浮かべた。 「冗談」 「え」  ……冗談だったのか。って何の冗談……? 良く分からなくて、じっと見つめていたら、俊輔はさらに苦笑した。 「……ずっと一人で閉じ込めておくわけにいかないって思ったのと……」  そっか、と頷くと。俊輔はオレを見つめて、ふ、と笑った。 「屋敷から出ても、今は逃げねえだろ?」 「……ん」  まあ。……逃げないけどさ。  ……あの時、自分から、戻るって決めたんだし。  あの日、戻ってから、大分感覚が変わったのは、俊輔の態度が変わったからってだけじゃない。  無理やり連れこられたんじゃなくて、オレが、自分で戻るって決めたっていうのが大きいんだと思う。  でも戻ると決めたとはいっても、これから俊輔がどうしたいのかとか分からないし、オレだってどうなりたいとかある訳じゃないのに、あの時、凌馬さんに聞かれて、オレは戻るって決めたわけで。どうしたらいいのかは、今も良く分からないまま。 「……大学、行けるのは嬉しい」  思ったことをそのまま伝えると、俊輔はオレを見つめ直した。  少しだけ唇を上げて……ほんとに少しだけ、笑って見せてくれて。  ……それだけなのに、なんか。  なんか、すごく、心の中が、ほわ、として。  ……なんか、不思議、だった。
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