第四章

30/45
前へ
/134ページ
次へ
30.「心臓」*真奈  固まってるオレに、俊輔が「はっきり、言っとく」と言った。  はっきり……何だろ。はっきり……。何を言われるんだろうとドキドキしながら、俊輔を見つめていると、俊輔はじっとオレを見つめ返した。 「――――言ってくれていい」 「……あ。うん」  ……そう、なんだ。……じゃあ、あの固まるのは何なんだろう。……ってこれは聞かない方がいいかな。言っていいって言ってくれたんだから……。  オレが、うん、と小さく頷くと、俊輔は少し間を置いて息をつきながら、少し視線を落とした。ちょうど、オレと俊輔の間にある、お茶の辺りを見つめてる。 「――――ただ、オレは」 「……?」  そこでまた少し黙ってから、視線をあげてオレをまっすぐ見つめた。 「あまり家族とそういうのはしていない。和義にも、そういえば、ああ、で答えることの方が多かった気がするし」  ……確かに、なんか聞いたことがあるような。その返事。 「慣れてないから――――少し、止まる、かもしれないが」 「――――……」 「……返すように、する」  目の前の整った顔。スッとした二重の形良い瞳。なんか無表情だと、彫刻とか、作り物みたいで、怖かったし。怒るとほんと眼光鋭いって感じだし。ずっと。怖かったと思うのに。  最後の一言を、言った時。  なんだか少し、照れたみたいに。  また視線が落ちたけど。それと同時に、口元が、綻んで。  ふ、と。優しい表情に、なった。  不意に、どきっ、と胸が弾んで。  きゅ、と、胸の奥が、締め付けられる、みたいな。  ――――……っ。  オレは、うん、と頷きながら、ぱ、と視線をお弁当に移した。  特に俊輔は、その後は、何も言わないでくれたから、オレは、なんだか、やたら多い自分の瞬きと、なんだかやたら早い心臓と、ひたすら戦う。  なんか。  何これ。心臓、痛い……。 「コーヒー飲むか?」  俊輔が普通の感じで、そんなことを言ってくるので、こくこく頷きながら、とにかく早くお弁当を食べてしまおうと唐揚げを頬張った時。 「唐揚げうまそう」  と、俊輔がちょっと笑う。 「……た。べ、た、い??」 「何だ、その喋り方」  完全に呆れたように言われた後、「食う」と返されて。なんだかドキドキしながら、箸で一個取って、そのまま口の近くへ運ぶと。俊輔が、ぱく、と食べた。  ……別にこれくらいのこと、色んな友達とかともやってきたし。食べさせてもらったり、あげたり。お弁当だけに限らず、お菓子とか、色々。やってきたのに。  何でオレ、今、ドキドキしてるんだろう。  …………ぜ。全然分かんない。  前を向いて、ぎゅう、と目をつむった後。お弁当をただひたすら早く食べてると。 「つか、ゆっくり食えって」  ふ、と苦笑してる感じの俊輔に、ただ、こくこく頷くのみ。  やっと食べ終わって、注いで貰ったコーヒーも飲んで、図書館に戻ることになった。俊輔は何をして待ってるつもりなんだろうと思ったら、オレの隣に座って、オレの課題のプリントを眺めてから。 「休んでた分の、形だけ出せばいい課題だろ? もう手伝うからさっさと終わらせようぜ。……とりあえず、ざっと読んで、大事そうなとこに付箋貼ってってやるから、そこメインに読んでまとめろよ」 「え。――――いいの?」 「まあ。この課題、オレのせいでもあるし」  …………たしかに。  ……俊輔のせいだと言ったらそうかもしれないけど。  眉を顰めて、きまり悪そうに言った俊輔がなんだかすこしおかしくて。  ふ、と笑ってしまうと、ますます、なんだかおもしろく無さそうな顔。 「……笑ってねーで、本貸せ。じゃあ真奈は、そっちやってろ」 「うん……」  ……図書館で、俊輔とこんな風に。  並んで一緒に、とか。  なんだか、すごく。くすぐったいような。  ……なんか、そわそわ、するけど。  ふと隣を見ると、真剣な顔した俊輔。  ……外で見ると、なんか、本当に、イケメン感が半端ないよね……。何なのこの人。 「――――何?」  思わず見つめてしまっていると、ふと、オレと目を合わせて聞いてくる。  どうしてこんなに、視線が強いんだろ。  ……ありがと、と、ぼそ、と伝えると。 「いいから早く終わらせて帰るぞ」  なんか、前ならその言葉。  冷たい命令に聞こえたのだと思うけど。  ……今は、そうは、聞こえない。 (2024/6/17)
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1668人が本棚に入れています
本棚に追加