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◆
チカは、自分が昨日死んでしまったことなど忘れてしまったみたいだった。あまりにも普通で、まるで幸せな時間がこれからもずっと続くと信じているような、そんな態度。僕にはそれが、かえってありがたい。
はじめに向かったのは、チカの好きだった動物園。
「見て見て、あれ、ケイタに似てる」
「え、僕? そんなに似てるかなぁ」
鹿に似てるなんて、はじめて言われた。
「うん。ほら、細いし、草食系だし」
「そうかなぁ。チカは、うさぎに似てるよね」
「ふふ、うれしいな。うさぎ、かわいいよね」
そう。かわいい。チカはかわいいんだ。おとなしくて、か弱くて、優しい。そんな君を、僕がずっと守ってあげたかった。
遅めのランチは、動物園近くのカフェ。
「ん、新商品だって! これにしよ!」
「いつものじゃないんだ? 珍しいね」
「あぁ……うん、たまにはね。ケイタは、こっちでしょ?」
チカが指さしたメニューは、僕の好きなカプチーノ。
「正解。よくわかってるね」
くすくすと、小さく笑い合った。こんなことが、たまらなくうれしかった。
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