それは心中にも似ている

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◆ 「誰なんだよ、お前!」  僕が言うと、女は、泣いた。 「……リカ。チカの、双子の妹だよ」 「はぁ? 誰だよ、ふざけんなよ! 双子とか妹とか、そんな話、チカから聞いてない!」 「私、チカに嫌われてたから……話さなかったんだね」  こいつはとんでもない嘘つき女。でも、今話したことが、どうにも嘘には思えない。チカにそっくりな顔も、真剣な眼差しも、こいつの話が本当だという証拠だった。 「……ねえ、ケイタさ、チカのこと、殺した?」  ――ドクン。鼓動が早くなるのを感じた。何故、それを知っている。誰にも話してない。誰もあの部屋には入ってない。それなのに、何故。 「部屋、見ちゃった。アパートの管理人さん、私のことチカだと勘違いしてたから、合鍵、貸してくれたよ」 「なんだよそれ……それで、それを知って、お前は何しに来たんだよ? 姉を殺された復讐か? そんなので僕らの終わりを汚すなよ……もういいじゃないか、死んだんだから。もう全部おしまいだったんだ! それなのに、生き返ったばっかりに!」 「勘違いしないで」  リカは、僕の頭を優しく撫でた。意図がまったく理解できず、僕は呆然と顔を上げる。 「私は、復讐なんかしないよ。チカのことは好きだったけど……でも、それ以上にね、ケイタのことが好きなんだ」  こいつは何を言っている? 僕のことが好きだって? 「だからね、それがバレて、チカには嫌われちゃった。姉の彼氏を好きになるなんておかしいって」  その通りだ。どうかしてる。 「でも好きなんだもん。仕方ないでしょ? 昨日の夜、たまたまケイタのアパートの近くを通ったら、明かりが消えてたから……ちょっと部屋に入りたくてさ」  ストーカーじゃないか。やっぱりどうかしてる。 「そしたら、チカが死んでた。それで今日、思い出したの。チカが昔に言ってた、『川が逆さに流れる日』の話……もしかしたら、ケイタもそれを知ってて、川を見に来るかなって」 「……それで、思惑(おもわく)どおりってわけか」 「うん。あのね、あんなのただの噂。おとぎ話。作り話。与太話。死人は生き返ったりしない」  死人は死人。生き返らない。一般常識だ。 「だからね、ケイタ。私がチカの代わりになるよ。一緒に逃げよう? ケイタがひどい男でも、人殺しでも、なんでもいい。私はケイタのことが大好きだから!」  リカは、僕に向かって手を伸ばす。この手を取れば僕は、僕の未来は、何かが変わるとでもいうのだろうか。  面白い。だから僕は、その手を取った。リカはうれしそうに笑って――その直後に、顔をゆがめる。 「いっ……痛い!」  僕が、その手を握って、握りつぶして、いやな音が聞こえた。 「ふざけんな、クソ女。お前のせいで、もう時間がない! 本当のチカは、どこにいるんだよ!!」 「ほっ……本当のチカは、死んで……」 「今日だけは、生き返るんだよ!」 「だからそんなの、嘘に決まって――」 「僕がそうなんだよ! だからチカだって、いるはずなんだ!」  そうだ、僕は生き証人。もう死んでるけど。
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