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「なんだか、すみません。お忙しいのに」
珠恵は、真理絵の肩の反対側にいるギタリストの彼に言った。
「あ、いえいえ。一人で運ぶのは大変でしょうから」
と、彼は今にも前のめりに倒れそうな真理絵の肩を強く抱いてタクシーまで一緒に歩いてくれる。
真理絵は、というと脚の自由がきかないらしく、右へフラフラ、左へフラフラ千鳥足で、屋台からタクシーまでのこの短い距離すら一人では歩けないようだった。
「もう、恥ずかしいんだからっ」
と、珠恵は俯いて笑う真理絵に言うと
「タマッ、うるさいぞ。お前はただのタマのくせにっ。来世は本物の猫にしてやるからなっ」
と、ヘラヘラ笑っている。
「飲みすぎだよ、もうっ」
と、珠恵は真理絵の身体を彼から預かり、頭をぶつけないように、真理絵をタクシーへ乗せようとした。
その時、真理絵の足が珠恵の足に絡まり、後ろに倒れそうに傾いたところをギタリストの彼が両手で受け止め、そのまま、2人はタクシーの後部シートに倒れこんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
と、咄嗟に真理絵の安否を確認する彼の首に、真理絵は両手を回して
「あら、いいオトコ。だぁれ?」
と、至近距離で彼を見つめて微笑んだ。
「ほ、穂積です。穂積陽一」
あまりの近さに彼が離れようとすると、真理絵は彼の頬を両手で包み
「ほづみくん~かわいい」
と、彼の唇にキスをした。
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