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珠恵はチケットを見た。
「今夜だけなんですか?」
と、珠恵は寝息まで立てて寝ている真理絵をチラっと見る。
もし真理絵が酔っ払ってなかったら、相談して一緒に行くのになぁ、と珠恵は思った。
「今日が最終日なんで。あ、無理っすよね?」
と、彼は珠恵越しに彼女の後ろでカウンターに溶けるように突っ伏した真理絵を見ながら言った。
「あ、ええ。そうですね。ごめんなさい」
と、珠恵は真理絵を隠すように彼の視線を自分の身体で遮り、チケットを彼に戻した。
「今日じゃなくても頻繁にライブやってるんで、いつでも。あ、フライヤー渡しときます」
と、彼は慣れた手際の良さでチラシを2枚ギターケースのポケットから取り出して珠恵に渡す。
そこに記載してあるバンド名を見た珠恵が、フフッと笑った。
「ダイアリー・・・・」
温玉が2つ入った味噌ラーメンを啜りながら、
「うちのバンドです。ダイアリー。いい名前でしょ?」
と、珠恵の顔を見ることなく言った。
珠恵の頭の中で今日は"ダイアリー"が渋滞してる。1日に2回もダイアリーに出逢えた。
なんだか不思議だなぁ、今日は。
朝から偶然𠮷原に会えた事も、𠮷原の事をたぶん好きなピンク髪の女の子とのやり取りも。
呼び出されて来てみたら真理絵がチョコまみれだった事も。
オッチャンの労いのシナチクも。
そして、ダイアリーなギタリストさんとの出逢いも。
いろんな事が一気に起こりすぎて、夢でも見ているようで、ボケーっとしてたら、ラーメンを出し終わって一服しているオッチャンと目が合ってしまい、お互いに訳もなく笑った。
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