生物学的恋愛論♪

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どうしてここに来てしまったんだろう。 真理絵が出掛けて行ったあと珠恵は一人、時間をもて余していた。 目の前には陽気に尻尾を振っているダイアリーが、"お前知ってる。見たことあるぞ" と、言わんばかりに珠恵の顎を舐めてくる。 「どんだけ気に入られてんだよ」 と𠮷原が笑いを堪えて言った。 「どうもこうも・・・・」 珠恵は一向に落ち着かないダイアリーを膝に乗せて、もうこうなったら気が済むまで顎を舐めさせてあげるしかないんだと腹をくくった。 「こらこら、ダイアリー。お姉さん困ってんだろ」 と𠮷原がダイアリーを優しく撫でると、𠮷原の指先に餌の匂いがついていたのか、ダイアリーは珠恵に見向きもせずに、今度は𠮷原に飛び付くように跳ね出した。 「げんきんな奴め」 と、𠮷原はダイアリーをそのまま別部屋へ連れて行った。 「何か召し上がります?」 見ると、シルバーグレーの彼女が親しみのある笑顔で立っていた。 「あ、こんにちは」 珠恵も、この彼女には親しみを覚えている。 「カレーライスとか、あります?」 「カレー、ですか・・・・」 彼女の残念そうな表情を見て、あ、無いんだ、とすぐに分かった。 「香辛料の匂いが苦手な子も居るからさ。置いてないんだ」 と、珠恵の背後で𠮷原が言った。 「そっか。ワンちゃんには匂いがキツいのかもね」 「なに?珠恵ちゃんカレー食べたいの?近所にあるよ、カレー屋。今から行く?俺も休憩入るからさ」 と𠮷原は人懐こい犬みたいに、微笑んだ。
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