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話を聞いてくれたお礼だと。
男はカウンター越しで目を丸くするスタッフにカタログギフトの冊子を差し出す。
「酔ってますね」
すぐさま、受け取れません!と押し返されて男は項垂れた。
その姿に何を思ったのか、スタッフの彼女はいつもの明るく溌剌とした笑顔を浮かべた。
「代わりに、それを下さい」
彼女が指差したのは隣の席に置かれたラウンドブーケだ。紫陽花と霞草を組み合わせた、あの花嫁らしい可愛くも清廉さを兼ね揃えた花束。
花か。
学生バイトで働く彼女ならカタログギフトを喜ぶだろうと思ったのだ。しかしこれまでそういった話をしてこなかっただけで、結婚や花嫁に憧れがあるのかも知れない。
男はブーケを握りしめてじっと何かを探し出すように見つめた後、それをカウンターの向こう側で無邪気に笑う彼女へ、何かを断ち切るように手渡した。
彼女は驚いたように受け取ると、ゆるりと表情を崩して笑った。
その様が、蕾が綻ぶようで少しだけ目を奪われる。
「幸せのお裾分けですね!ありがとうございます」
でも、どこか照れくさそうに彼女は続けた。
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