卵とタヌキと人間社会

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「欲しいもの、特にないかなぁ……」 「ええ!?」 欲しいものがないとは。 「なんでも良いのですよ? 欲しいものでなくても、して欲しいこととか。貴方様はお若いのだから、なにかしらの欲があるでしょう」 「うーん……」 響は、ウサギのぬいぐるみを抱えて悩んでいる。 ポコタはそのウサギのぬいぐるみが異様に怖かった。怖いので、ウサギのぬいぐるみをどこか遠くに置いて欲しい。 だが、ポコタの願いも虚しく響はウサギのぬいぐるみを抱きしめたまま、うんうん唸っている。なかなか願いが思いつかないなんて人間にしては欲がない。 しばらくして、何か思いついたらしい。 「そうだ! 卵が欲しいな」 「卵!?」 ニワトリの卵のことだろうか。だとしたら、何て物欲のない。 それとも、黄金の卵とか、そういう価値の高そうなものだろうか。 「今日ねぇ、夜ご飯にオムライス作ろうと思ってるんだ。でも冷蔵庫に卵ないの。ボクとちーちゃんの分で、4個くらい卵があると嬉しいな」 響が欲しているのは、ただのニワトリの卵だった。彼の回答に、ポコタは気が抜けた。 そして、ちーちゃんって誰だ。 「ね、ポンちゃん、卵出せる?」 響がキラキラした期待の眼差しで見つめてくる。その顔にポコタは一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直し、恭しく答えた。 「わかりました! 用意をするので、後ろを向いていてください」 「うん!」
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