卵とタヌキと人間社会

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山から下りて、早速ポコタは都会の洗礼を受けた。 人間にではない。カラスにだ。知らないうちにカラスのテリトリーに入ったのか、子育て期で神経質になっているのか、突然大きなカラスが襲ってきた。 こちらもカラスに化けて応戦しようと思ったが、精神的に落ち着いていない状態での変化は難しかった。隙を見て逃げるしかない。 「こら! 弱いものイジメしちゃダメでしょ!」 逃亡を決めたポコタの耳に、子どもの甲高い声が聞こえてきた。 人語を理解しているのかどうかはわからないが、その声がすると同時に、カラスはポコタを突くのをやめてどこかへと飛び去って行った。 「アライグマさん、大丈夫?」 カラスを追い払った子どもが、ポコタを覗き込む。 タヌキだ。アライグマじゃない。 反射的にポコタは思ったが、助けてくれたことはありがたい。 人の良さそうな子ども。 そうだ、この間抜けそうな人間を利用してやろう。 ポコタは気絶している振りをした。 「あれ、寝てるのかな。うーん……」 子どもは困った声をあげた。ポコタをどうしようかと考えているのだろう。 だが、先程カラスからポコタを救った正義感。きっとポコタを放置して去ることはしないはずだ。 子どもの家に行き、ポコタが正体を話し、うまく取り入って仲良くなり、最終的にポコタの手下として操る。完璧な計画である。 「今日は夕食の用意をしないといけないから、もう帰らないと。アライグマさん、一緒に帰ろう」 ポコタの想像通り、子どもはポコタを抱えて歩き出す。 子どもの温かい体温を感じながら、ポコタは計画通り進んでいることに胸を躍らせていた。
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