卵とタヌキと人間社会

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子どもは目の前に喋るタヌキがいるというのに、特に怖がる素振りもなく、まるで人間と接しているかのように話しかけてきた。 「アライグマじゃなくてタヌキだったんだね。タヌキだからポンちゃんだね」 ちゃんと名乗ったのに、タヌキだからという理由で勝手に名付けられてしまった。腑に落ちない。 だが、目の前の人間に取り入るために不満は心の奥にしまっておく。 子どもはポコタの不満を知るよしもなく、愛想よく自己紹介を始めた。 「ボクは音無 響(おとなし ひびき)です。16歳だよ。高校2年生!」 16歳だったのか。子どもだと思っていたが、ポコタの予想よりも上の年齢だった。外見といい舌ったらずな喋り方といい、とても16歳には見えない。ついでに言うと性別も未だにわからない。多分男だとは思うが、よくわからない。 だが、精神的に幼い方が扱いやすい。 へりくだって、相手の信頼を得て、相手が自分の言う事を何でも聞くようになるまでの我慢だ。その時まで、子どものお守りをしてやろう、とポコタは内心ほくそ笑んだ。 「貴方様は命の恩人です。お礼と言ってはなんですが、何か叶えたい願望や欲しいものはございませんか? 私にできることなら何でもします。美男美女にも化けられますし、欲しいものも目の前に出してさしあげましょう」 欲深い人間のことだ。ここまで言えば興味津々で食いついてくるに違いない。 そうポコタは予想していたが、響の反応は予想外だった。
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