卵とタヌキと人間社会

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ポコタは焦った。 調理に使われてしまっては困る。ポコタは動かない身体を必死に動かそうとした。 手足がないので揺れるだけだろうが、それでも何とか体を動かそうと念を込める。 響の手の中で卵が動く。響は驚いたような声をあげた。 「ポンちゃん、この卵暴れてるよ。ヒヨコさんでも生まれるのかな」 違う。この卵はポコタだ。 響に早く気づいて欲しくて、ポコタは一生懸命体を揺らした。割られる前に。 「あっ」 あまりに激しくポコタが動いたため、響の手の中から、卵がすべり落ちた。 床に落ちた卵は、静かに音をたてて割れた。 殻が割れて中身が飛び出している。割れた衝撃のせいだろうか、黄身も崩れてしまっていた。 「あ~、お掃除しないと……。ポンちゃん、お手伝いしてくれる? そこにティッシュがあるの」 響は、そこにいるであろうポコタに声をかけた。 反応はない。 それもそのはず、ポコタはそこにある卵に化けて、割れてしまったのだから。 「ポンちゃん?」 響はもう一度声をかけたが、もちろん返事はない。 ポコタはどこかへ去ってしまったのだと響は解釈したのだろうか。一人で割れた卵の後始末を始めた。 響は床に落ちた卵の殻を拾い、黄身と白身を手ですくい、シンクへと落とす。 ポコタだった卵は、排水溝の中へと流されていった。
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