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1、いつもの昼
何度も自分に言い聞かせる。
今度こそ、失敗しない。
今度こそ、このひとふりを間違えないように。
(大丈夫、大丈夫)
「えいっ」
何度も書き写して覚えた言葉を正確に詠唱し、杖を振るう。
「でき、た」
ちゃんと覚えたとおりに出来たことが嬉しくて、つい、最後の力を抜いてしまった。
途端、軽い爆発音と共に、小さなじゃがいもと人参が数個、ごろん、と籠の中に召喚された。
あぁ、また師匠に言われてしまう。
最後まで気を抜かないように言ったでしょう…って。
「また、やっちゃった」
召喚されたのは、望んだ新鮮な野菜ではなく、あと一日経てば熟れすぎてどうにもならなくなってしまうような野菜たち。
「今日もまた野菜スープかぁ…」
この世界は、自給自足。
野菜も、肉も、果物も、自分で召喚しないと手に入らない。
とびきりいい状態で召喚されたものは、特別召喚物、と名付けられて、高値で取引されることもあるので、売りに出されることもある。
金銭は大事で、それがないと衣食住のうち、衣と住がどうにもならない。
時々、本当に時々、食べ物じゃなくて人間も召喚されたりする。
それはどこか別の世界からやってきて、召喚人と呼ばれる。
もともとこの世界にいるひとたちのように、自由にいろんなものを召喚をすることはできないけれど、その知識と知恵を提供することで、この世界に溶け込んで生活している。
(私も、召喚人、なのにな)
中途半端な知識と知恵。
中途半端な召喚力。
火に2階の召喚で手に入れた食材をその日のうちに食べてしまうようの私にとって、貯蓄、とか将来、とかは夢のまた夢の話だ。
何度目かわからないため息をついたところで、師匠が帰ってくる気配を感じた。
「ただいま、ルク、今日も練習に励んでいる?」
「おかえりなさいませ、師匠。えっと、はい」
おそるおそる、籠を差し出す。
師匠は、とてつもない力を持っているのに、あまりそれを使わない。
食べ物も、衣類も、住居だって、最低限あればいいよ、と言って、時々しか召喚しないのだ。
その代わり、どんなに少なくても、形が悪くても、私が召喚したものを使おうとする。ルクが頑張った証だからね、と言われてしまうと、心の奥が温かくなって、嬉しくて笑ってしまいそうになる。
「また失敗したの?これで何回目?」
「こっちに来てから数えて200回目くらいですかね…師匠」
「ってことは、100日目の失敗を更新、と…」
召喚は一日2回やっている。それ以上はたくさん召喚され過ぎてしまって、処理できないからね、と前に師匠が言っていた。嬉しそうに師匠が壁の落書きに線を加えるのを眺め、その数が増える度、私のため息もまた、増えていくのだ。
「今日は人参とじゃがいもか…昨日の玉ネギと合わせれば何か作れそうだね」
「昨日は塩のスープだったから、今日は別の味を試したいです、師匠」
「そうだねぇ…じゃあ特別に牛乳を出してあげよう」
師匠が嬉しそうに籠の中を覗き込む。
まぁ、ふたり分だし、ちょうどいい量ではあるのだけれども。
でもやっぱり本当は、保管庫の棚がいっぱいになるくらい上質な野菜や肉や果物を召喚してみたい。
お肉が食べたいときに、師匠が仕方がないね、と言いながら杖を振るうことが無いようにしたい。
誰に召喚されたかわからない私を拾ってくれたのは師匠だから、恩はちゃんと返したい。
そう思っているのに、なかなか思うようにいかないのだ。
あぁ、ため息が止まらない。
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