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3、いつもと違う昼
その日は森に生っている果物や木の実を取りに行く日だった。
食事に使うもの、薬草として使うものを順番に採っていく。
師匠と一緒に住んでいる小屋の周りには、それはもう見事な森が広がっていて、薬草やら木の実やら食べられるものがいっぱい生えている。薬草は食べるわけではないけれど、煎じて薬にして町で売ったりしているのだ。師匠が。
私のつたない召喚力でも何とか生活できているのは、この森のおかげかもしれない。
籠がいっぱいになったら帰ってくるんだよ、と言われているから、黙々と採っていく。籠の中身が半分くらいになったところで森の奥まで到着した。これは折り返し地点で、体を反転させて、今度は逆方向から採取できるものをさがすのだ。
と、その森の奥で、召喚の練習をしている子供たちがいた。
師匠からは、あんまり他の人と話してはいけないよ、と言われているので、木の上に隠れることにする。
私もあんな風に、人気がないところで師匠に教わったなぁとしみじみしていると、ふと、気づいた。
(師匠のと、ちがう?)
召喚するときに唱える言葉は、望んだものによって構成が異なる。
内容はほぼ同じで、望んだものによって杖の振り方が違うのだ。
けれど、彼らが使っているものは、そういう違いではなく、根本から、構成そのものが違う気がする。
(最初と最後の杖の振り方がちがう)
なんでだろう、と思いながら、帰路につく。
籠はいっぱいにはなってなかったけれど、子供たちはまだまだ帰りそうになかったからだ。
決して、不安になったからでは、ない。
(師匠は、私の恩人だもの)
だから大丈夫、と自分に言い聞かせながら。
「師匠、さっき森の奥で召喚術を練習している子供たちがいましたよ。なんだか懐かしくなっちゃいました」
「へぇ、珍しいね、こんなところまで」
「何か、楽しそうに話しながら練習していたので…ナイショなんですかねぇ」
「そうかもしれないねぇ」
牛乳を混ぜて野菜と煮込んだスープを作る様子を見ながら、籠の中身を選別する。
(これは貯蓄用、こっちは師匠のお薬用、と)
子供たちの杖の振り方を思い出しながら、黙々と選別していくうちに、籠の中身は空になり、同時にご飯の支度もできた、と声がかかった。
(またみられるかな)
もう少し早く行ったら、最初からみられるかもしれない。
明日は師匠よりも早起きしてみよう。
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