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5、初めてのおつかい
「ルクもそろそろ町に出てみようか」
「い、いいんですかっ」
「買い物とか頼むことがあるかもしれないからね」
すべて自給自足、召喚物で賄う生活をしているこの生活で、何を買い物するのだろうと首を傾げると、牛乳とか調味料とか、そういうものを買うらしい。牛乳はこの間師匠が召喚してくれたような気がしなくもないけれど、初めての場所へ出かけることのほうが嬉しくて、すぐに忘れてしまった。
「わぁ、ひとがいっぱいですねっ」
たくさんの露店に目移りしてしまう。これでも町の規模としては小さいのだと師匠は教えてくれる。
きれいな野菜やお肉や果物がたくさん並んでいるお店、それらを加工して提供しているお店、嗜好品のお店、ひとつひとつ師匠は教えてくれた。
ふと、視界の端に何かが入った。振り返ると、目立たないようにひっそりと、けれどそこそこ賑わっている露店がある。
「師匠、あれはなんですか」
「あぁ、あれは、養殖石の店だよ」
「ようしょく、せき」
「そうか、石の説明をしていなかったか…私には不要なものだったから失念していた」
おいで、と木陰に手招きされる。
「ご覧、これが、召石だ。通常モンスターを倒したり、ダンジョンを探索することで手に入る。あとは、召喚神に愛された召喚人は定期的に手に入る、という噂もあるね」
「召喚神に愛された、召喚人…」
「ルクは見たことがあるかい?」
師匠の手のひらにある石は、確かにこの間早起きした時に枕元にあった石だ。けれどそれ以来見かけなかったから、すぐ忘れてしまっていた。
(これが召石)
初めて見た、と首を横に振る。
ここは、これが正解。きっと。
「これは召喚したいものの質をより良くしたいときの補助用の小物、と思えばいい。実際それ以上の意味はないからね」
ではあの子供たちは、これを求めていたのだ。そこでやっと、言葉の意味が繋がった。子供たちの、暗い表情の意味も。
「天然の召石に対し、養殖の召石もある。危険な目に合いたくないというひとたちが買うものだね」
養殖というからには、栽培できるのだ。ひとつの召石の塊を粉々にし、それを核にして育てる。そうすると効果は召石よりは劣るけれども、そこそこの質の召喚物が手に入る、らしい。
時には失敗してとんでもないものが召喚されることもあるが、そんなことは稀だ、と師匠は締めくくった。召石は大変人気があり、採取した本人は手放さないし、手放したとしても大変な高額でやり取りされるような代物なのだそうだ。
「質が良く、きちんと制御できる召喚を補助してくれる道具なんて、誰もが欲しがる。当たり前のことだろう?」
同意を求めてきた師匠の瞳の奥に、ほんのすこし、いつもと違う熱が見えた気が、した。
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