7、目覚めた朝

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7、目覚めた朝

酷い頭痛だった。 夢の中なのに痛みがあるなんて理不尽だ、と思う。 『目覚めましたね、愛し子』 「いとし、ご」 『私の不手際で、転生させる際に記憶を落としてしまいました…ごめんなさいね』 「いや、えっと…はい」 話を聞くと、私は別の星からの転生者で、その別の星でも聖女の転生だったらしい。非常に珍しい魂なので、こちらの世界に引っ張ってきたのだとか。 (引っ張ってくるときに記憶を落としてしまったとか…結構抜けてるのかな...) 神様っぽい神々しさで輝くそのひとは、やはり神様だったらしい。 召喚神、というらしい。 転生した大地は、みんなが召喚しすぎたせいで、エネルギーが枯渇してるんだとか。 (あー…だから召喚回数に制限が…) ほんの少しだけ転生前の記憶がよみがえった気がする。 薄い黒い板みたいなものと、きれいな画面と、【召喚!】と書かれたボタンと…。 (……ゲームのガチャか) 仕組みがわかれば、なんということはない。 正しい手順を踏めば、誰でも高品質の召喚物を手に入れることができる。ただし、それなりの代償が必要になる。 『記憶を取り戻したいですか?』 問われた内容に、首を振る。転生ということは、元の世界ではきっと私は死んでいるのだろう。そんな場所の記憶を取り戻したところで、何の役にも立たない。 (うっすらよみがえった記憶も、ゲームだったし) 「大丈夫、私は、師匠のところで頑張るから」 困ったらまた呼びかけることを約束し、私は目覚める準備に入った。 『あぁ、そうそう。あなたの師匠に伝えてください。やきもちはみっともないですよ、と』 「へ、?」 よくわからないまま、召喚神さまの気配が遠のく。私はいつでも見守っていますよ、という優しい声と共に。 目を開けると、心配そうに私の顔を覗き込む師匠の姿があった。 「……おはようございます」 「おはよう、その様子だともう大丈夫なようですね」 起き上がると、枕元から綺麗な石がころんと転がった。 「……師匠、もう隠さないでいいんですか?」 「隠しても無駄でしょう」 背中を向けたままだけれど、わかる。師匠は拗ねている。召喚神が言っていた、やきもち、の意味がほんの少しわかったような気がした。 「師匠、私ちゃんと召喚できるようになりましたよっ」 「おや、そうですか。では召石を使わずにやってごらんなさい」 「えー」 今日はきっと、前よりは質のいい召喚物が手に入るはずだ。 召喚神も、師匠もまだ何かを隠しているみたいだけれど、毎日美味しいご飯を師匠と一緒に食べられれば、今はそれで充分だ。 召喚神のもとで、私は、私を取り戻した。 そして、この世界で生きていく。 手の中に輝く石を握りしめ、そっとポケットにしまった。
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