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「ええと…」
対応の階に到着すると、目の前の案内地図と照らし合わせながら廊下を進む。
恐らく壁の破れなどにも蝶の和紙で修繕され、もちろんゴミ1つ落ちていない。
キレイすぎて余計に緊張してきた。
「ここか。」
部屋前で暗証番号の書かれた紙を凝視しながら慎重に番号を打ち始め…たところで
ガチャッ
「安堂さん!?」
ピッピと鳴る音に反応したのだろう。そういえば彼はインターホン恐怖症だった…配慮の欠けた対応に背中がヒヤリとしたが、それをかき消すほど英護がニコニコと笑うから少し安心した。誰か来る前にまず部屋に入る。
「すまない、待たせただろう。」
「大丈夫っスよ!でもいつ来るかめちゃくちゃ楽しみにしてました!うわあ、安堂さんだ。本当に安堂さんが来てくれたんスね!」
バスローブ姿の英護がはしゃいで抱きついて初めて気づいたが、彼のご立派な逸物が完全に隆起している。一体いつから、と思うがその無邪気な態度と正反対過ぎて困惑した。
「焼き肉ビュッフェ最高でしたよ!煙の匂いがまだ残ってるかもしれませんけど…満腹で幸せで、安堂さんが来てくれてもっと幸せっス!」
「そ、そうか。」
おそらくこちらの機嫌を取るお世辞ではない。本心から英護が犬のように喜んでることが見てとれる。なんだか見えない尻尾と耳をブンブン振ってる幻覚も見える気がする。
「あ、シワになっちゃうからコートとかスーツ掛けましょ。部屋暖房付けてますけど寒かったら言ってくださいね?」
「いや大丈夫だ。」
むしろ少し暑く感じられたくらいなのでシャツ姿で丁度いい。甲斐甲斐しく英護がサッとハンガーに掛けてくれた。
「部屋の中もバスユニットもめっちゃキレイなんスよ!二人部屋とは思えないくらい!ベッドがダブルは露骨過ぎると思いましたけど難なくチェックイン出来ましたね。安堂さん引率疲れたでしょ?まずはゆっくり…」
「…もう、いいから。」
「安堂さん…?」
テンション高く部屋案内をしてくれようとする英護のバスローブの袖を引っ張った。数人にはこれが精一杯、だがその発情した表情は最大限のお誘いの表れだった。
緊張でやや肌を上気させ、目の周りがほんのり赤い。メガネの奥の瞳を熱っぽく潤ませ、不安に眉を垂れさせているものの期待と興奮で全開の眼差しに、思わず英護も真顔になる。
「取り繕わなくていいから、今すぐ抱いてくれ…っ♡」
「………。」
両肩に羽根が落ちるように優しく手を懸けられたから、その場で押し倒されることも覚悟して肩に力を入れて目をつむったが、英護は歌うように静かな声で確認した。
「その言葉、忘れないでくださいね。後で文句いう分には責任取りますけどね。」
「…………っ!」
どうやら英護は「マジ」だ。
最上級の獲物を目前とした肉食の獣のようにギラついた情欲的な目で数人を捉える。
でも、最初から…逃げるつもりなどない。
全て食われる覚悟をもって、噛みつくようなキスを受け入れた。
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