えぴ30

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「はい、安堂です。」 「安堂くぅん、ドア開けてよぉ。」 酔っ払ってるのだろうか、ドアの向こうからやけに艶かしい矢車先生の声がする。 参ったな、出るためになんと説明しよう…。 「申し訳ありません、ただ今立て込んでまして…」 「何よ!開けてくれないならここで叫び続けてやるから!困るのは安堂くんの方よ!」 何故自分が困るのだろう、駄々っ子のワガママに頭を悩ませつつも渋々ドアを開けるとほぼ下着同然でバチバチに化粧をキメた矢車先生が立っていた。数人の代弁するが歩く凶器である、色んな意味で。 矢車先生は全身の力を抜いて数人にしなだれかかる。強烈なコロンの臭いが鼻をつき、腕や胸構わず半身をベッタリくっつけてくる。 さすがに童貞の数人は突き放し方も分からず困惑していると矢車先生がその頬をねっとりと撫でて潤んだ瞳で凝視する。 「ねぇん…数人、あたしを1人にしないでぇん…」 「困ります矢車先生、夜の巡回もあるでしょう?お酒飲み過ぎじゃないですか。」 「お酒なんて飲んでないわ!でも今は…ウフン、あなたに酔っていたい気分♡ああん逞しい胸板ン」 油断をついて胸に抱きつかれる。そのまま押し切られ、部屋に入れると「まずい」そんな気がしてならない。鈍感な数人にそれを教えてくれたのは本能か危機感か。とにかく貞操の危機がしてならない。 助けを求めようにも人生は何度も都合よく行かない、近くには誰もいない。かといって「教頭先生が呼んでましたよ」などとあからさまな嘘がつけないのが数人の不器用である。いつ決壊するか分からないままドアの縁にしがみついて1歩も入れさせないことで耐えるしかなかった、それも時間制限付きだ。 「いい加減鈍いふりはやめてあたしの気持ちに気づいてよ…!」 手押し相撲しながら矢車先生が喉奥から切羽詰まった声を洩らす。たまらず数人も反撃してしまった。 「そんなのっ…私の都合は無視ですか!」 「ーーーーー。」 脈絡なく止めの言葉になってしまったらしい。ピタリと矢車先生が押すことをやめ、一歩たじろいだ。焦点の合わない虚ろな表情で数人がフォローの言葉をかけようと口を開いた途端、何も言わず走り去ってしまった。 …失言だったかもしれない、傷つけるつもりは微塵もなかった、だがどんな言葉が相手に取って痛いものか…教育者としてもっと考えるべきだった。 矢車先生を追いかけた方がいいだろうか、英護とセ○クスするのは楽しみで仕方ないがこのままでは良くないだろう。英護にも悪いが私の責任だ、少し遅れることをメールして… prrr 「!」 英護からの着信に慌てて通話開始を押してしまった。廊下には誰もいないが辺りを確認して慎重にドアを閉め、携帯を耳にかざす。
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