えぴ30

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「安堂だ。」 『待ちきれなくて電話掛けちゃいました!でも何か予定入りました?』 「あ、ああすまない。実はその…だな。」 隠す必要もないが、矢車先生のプライバシーもある。なんと説明すればいいだろう?返事にまごついて唸っていると静かに返答を待っていた英護も受話器の向こうで首を傾げたのだろう。 『電話じゃ言えない話スか?来れそうなら直接話しましょ?無理なら…その、大丈夫ス!』 ああ、その言葉で英護も会うのをめちゃくちゃ楽しみにしてることを察してしまった。 こちらの予定に全て委ねようと我慢して、無理に明るく振る舞ってると数人でさえ気づいてしまったんだ。 だが実のところその方がいいかもしれない。 事実困っているから英護に相談に乗ってもらい、明日きちんと矢車先生に謝罪しよう。 今謝りに行ったところで何が悪いかも分からず上っ面を合わせるだけだ。そんな誠意のない謝罪じゃいけない。 「少しトラブルがあって…今から行くが、アドバイスが欲しい。ホテルで聞いてくれるだろうか?」 『あっ来れるんスね!全然いいスよ!会えないのもちょっと覚悟したので…了解ス、待ってますね!』 通話を切ると、なんだか数人も安堵していた。都合よく頼っているのに彼は本当に親切な男だ…。年齢関係なく尊敬する。 「早く行こう。」 リラックスして動きの止まった自分に言い聞かせ、コートを羽織り直す。今度こそ誰かに呼び止められる前に急ぎ、旅館から出てく。
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