えぴ35

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えぴ35

相変わらず昨日と似たように誰かが列でバックを忘れただ、お土産落としただ連絡は絶えなかったが大きな事件は起きていない。 不思議なことに、連絡するのは大抵同じ人物なのだ。心から動揺して電話しているのでわざとやってるとは思えないが落とす者は何度も落とすし、何もない者は何もない。 そうして電話対応しながらアトラクションをひとつも乗ることなく数人はパーク内を巡回する。混雑時に比べたら人は少ないのだろうが、それでも時折すれ違い様に肩が触れることがあるくらい人通りはどこでもある。 はぐれないようチラチラと後ろを付いてくる毛利学楽にも気を配りながら歩く。 「毛利、疲れてないか?」 「はあはあっ大丈夫です先生!」 毛利は典型的な勉強タイプで運動能力は無いに等しい。それを抜きにしても常人であればこの人込みの荒波に揉まれればこうなるものだが化け物じみた体力の持ち主である数人には慣れっこだった。一晩くらいの徹夜は徹夜に入らない胆力の持ち主。荒波にも抗ってスイスイ歩いていたが毛利は限界だろう。 どこか休憩出来る場所はないだろうか、人の頭の上から覗き見て辺りをキョロキョロ見渡すと、奥の方のカフェでやはり見慣れた顔があった。 「………。」 オープンテラスから見えるように座った英護はサングラスでバッチリキめ、目が合うと笑顔で小さく手を振ってくれた。 待ち合わせの場所はここだったか、と店の名前を確認するが隣に毛利がいることに気づいて控えめにアピールしてくれたのだろう。 あっものすごい美女がトレーを持って英護に声かけた。相席を申し出たのd…断った、速いな。その速度になぜか安堵してしまう。 人波で足を止めて見とれてしまうほど動けないでいると小指サイズほどの英護は立ち上がり、その隣のお土産屋を指差した。 これは…職権濫用になるだろうか?毛利の体力も心配だが、その(てい)がなくても私は恐らく…フラフラと付いて行ってしまうだろう。 イケナイと思いつつも欲望に負けてしまい、息切れして下を向いてる毛利に話しかけた。 「毛利、あちらの土産屋で休息しよう。中を見てもいいし近くのベンチで休憩してもいい。30分間自由時間とする。」 「はー、はー、せ、せんせえはっ…?」 「置いていったりしない、私も近くの店にいるだろう。そのままでは貧血で倒れてしまう。」 歩き疲れで荒い呼吸にかき消されないよう努めて優しく説得すると毛利は眉の力を抜き、弱々しく頷いた。そこのお土産屋までも歩くのはキツかっただろうが、健気に付いてきてくれて、ベンチに座ると一体化してしまった。 膝をついて顔を覗きこみ意識ははっきりしてることを確認してから携帯で30分アラームセット。店内へやや駆け足で飛び込む。
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