えぴ35

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「………。」 あえて生徒が寄らなそうな、職場や友人に配る土産屋ショップを選んだのは正解らしい。 数人の入店と同時に入れ違った1グループ以外生徒は外で待つ毛利だけとなった。 店内はちらほらと客を見受けられるが気難しい上司や厄介な関係相手に何を贈ろうか、テーマパーク内と思えない憂鬱そうな顔して土産物を凝視する客か、唯一楽しそうな英護しかいなかった。 「安堂さんっ、やっと会えましたね!」 大きめの店内BGMで声をひそめなくても誰も振り返らないだろうに、わざわざ接近して小声で話しかけてくるのは英護の作戦だろうか。彼の声が素敵すぎて危うく膝が折れそうになったのを教師のプライドだけで持ちこたえた。 「ああ、外のベンチに生徒がいるが…」 「見えてましたよ。ちゃんと先生なんだなって実感しました!」 黒寄りのサングラスをかけているのにその奥で無邪気に笑う英護の顔が容易に想像出来る。なぜそれを疑問に持つか、ベッドの乱れようを思えば答えは近いのだが数人は敢えて考えないことにして、小さく咳払いする。 「土産物は決まったか?」 「はい、安堂さんに頼まれたご両親への分は昨日のうちに終わったんでうちのボスの分スね。」 なるほど、鞄屋店長…彼がボスと呼ぶ堅気に見えなそうな店長のことか。店長が英護のことを「せがれ」と呼ぶのでなんとなく関係は親子と思っている。親にも土産物を送るとはやはり孝行息子だと頬が緩む。 「店長はどんなものが好きなんだ?その…合法だよな?」 「ふはは、確かにボスって見た目も怖いスもんね。でもああ見えてこういうリボンの白猫ちゃんのお菓子とか大好きなんスよ。あ、俺が言ったことバラさないでくださいよ?顔面を補修用合成革にナメしてやるって脅されてるんス。」 大分物騒な脅しをされているが簡単に打ち明けてくれたのは信頼の証か…どちらへの信頼かは不明だが。それよりも、目に傷のある海の家風ワイルドに豪快に笑う店長が脳裏でファンシーな部屋で可愛い猫ちゃんのぬいぐるみに抱きついて甘える姿を想像してしまい笑っていいものか複雑に口角を歪ませた。 しかし10分と経たず二人で店内を1周しても英護が土産を眺めるばかりで決めないので、外の様子が気になる数人はソワソワしだす。あまり生徒が来ないとは言え、同行の教員だって入る可能性はある。ここは英護が望む物がなかったのだろうか? 「まだ時間かかりそうか?」 「いえお菓子は決めました。やっぱりこの猫ちゃんにします。」 「そうか、それじゃ配達の手配を…」 「直接持ってくので大丈夫スよ。買う前に…安堂さん、トイレ行きません?」 その提案に数人は大賛成だ、というか人の目がなければどこでも無警戒に付いていく。 誰に見られるかと常に神経張り巡らせることに疲れてしまった。声も出さず短く頷き、英護の企みを含む笑みに気づかないままソッとトイレに入ってしまった。…二人で1つの個室に。 このシチュエーションは数人も見覚えがあった。
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