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このまま時ばかり過ぎていく…と思った矢先英護がパッと顔を上げ、策がある様子でこちらを見た。
「そうだ、俺これから毎日安堂さん迎えに行きます!」
「ん、…ん?」
一体どういうことだろうかと首を傾げていると彼は続けて説明してくれた。
「これからはなるべくそいつと二人きりになる状況が作れないように、俺が安堂さんの学校の校門、裏口でもいいんスけど迎えに行きますから!そうすれば簡単には誘われないでしょ?」
「ま、まあ…」
確かに、普段から自分は飲み会などは極力断っているのに最近は教頭のお誘いがしつこい。毎度嘘の理由を作って逃げることにも疲れつつあるから「理由」があれば助かる。
「俺のこと従兄弟とか言って、送迎の約束があるとか言って…どうスかね?」
上手くいくだろうか、なんて文句言える立場ではない。この地獄から抜け出せるならなんでもするつもりだ。
「しかし、君の働く店から私の学校まではそんなに近くないだろう?1度2度ならまだしも毎日となると負担じゃないか?」
巻き込むのは申し訳ない、とお断りすることも視野に入れていたが…英護は至極真面目な顔して数人の肩を抱き、手を繋いで握った。
キスでもされるのかって距離に数人は目を丸くさせた。
「何言ってるんスか!あんたは、俺の、恋人でしょ!こんなに苦しませて…黙っていられないス!俺、絶対毎日通いますから!」
「……………。」
ああ、嘘みたいだ。
快楽で誤魔化して耐えることしか出来ない自分と違って彼は、英護は…こんなにも…
打ち明けて、気味悪がられるんじゃないかと。甘えだって、拒絶されるとばかり。
話すことでこんなに心が軽く、暖かくなるなんて…
「…………。」
今は何も怖くないのに、ボロボロと涙が溢れてしまう。そんな数人を英護はグッと抱きしめた。
「ありがとう…ありがとう…」
泣きじゃくりながら同じ言葉を繰り返すことしか出来なかった、それが精一杯の感謝の気持ちを伝える手段だった。
「俺が守りますから…ね。安心してください。」
ありがとう、ありがとうと唱えていつの間にかそのまま眠りに落ちてしまったらしい。
ここ数日のうちで1番深く、落ち着いて眠ることが出来た。
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