えぴ49

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えぴ49

顔に横線をたくさん引いたように笑う教頭。それはドアの鍵を締めて立ちはだかり、手先を虫のようにワキワキ動かし、四股を踏むような姿勢を取っている。 「笑う」ことは敵意の真逆であるはずなのに、どうしてこんなにも頭の中で警鐘が鳴らされるのだろうか。警鐘に合わせて心臓の拍動は早まり、今すぐこの現場を逃げ出さないと取り返しのつかない事態になる、と数人は判断した。 「………っ!」 もはや、相手を人間と思わない。欲に取りつかれた化け物なのだ。数人は姿勢を低くし、次の瞬間出口であるドアに向かって駆け出した!…はずなのにーーー 「ぅあっ!」 さすがに扉の守護神の前ではドアノブに手を触れることもかなわなかった。ジャケットの襟部分を掴まれ、引っ張られれば簡単に姿勢を崩して仰向けに倒れてしまう。不利だ、あまりに不利だ。さらに教頭は不気味な笑顔から怒りを露にする。逃げようとした数人が気に食わなかったのだろう、風呂敷のように両手を広げ覆い被さろうとする。 「いやいや、失礼じゃないか安堂くん。目上の人を前にして挨拶もなく逃げ出すなんて、これだから今時の若い者は…」 「くっ…!」 話が通じない、と言うことは本能が教えてくれた。グレーの埃を肘膝に擦り付けながら教頭の股下を匍匐前進して逃げようとしたところーーー ドグッ! 横腹の辺りを思いっきり蹴飛ばされた。 「ぐぅ、ふっ…」 これにはさすがに数人の動きも止まる。 左のわき腹に刺すような、鈍いような激痛。 痛みで目の前が白黒と点滅し、涙でボヤける。それでも必死に逃げようとここに居てはいけないと警告する本能に従いドアノブにすがり付くように手を伸ばすが… 「ゲームオーバーだよ、安堂くん。」 ねっとりした声のでっぷりとした教頭に馬乗りされてしまい、組み敷かれてしまった。 ジャケットを半端に脱がされるとそれだけで簡易拘束されてしまい、両手を1まとめにしてズルリと引き抜いた教頭のベルトで縛られてしまう。 「教頭先生、やめてください…っ!」 とぅに対話は無駄だと分かりきっていた。それでもどこか、無我夢中で…改心しないかと淡い希望を抱く。すぐにその小さなあぶくは教頭の狂ったような引き笑いにかき消される。 「君は本当にカワイイなあ…はあ、なんていやらしいカラダをしてるんだ。本物のオンナのようだ…」 馬乗りになった教頭にシャツの上から胸を揉まれ、手を離さないまま腹を撫でられ、また胸を両手でグッグッと搾るように包まれた。その感覚は当然快ではなく不快。自己の欲望を満たすためのその手つきは力加減など知らず、アザになるほど強かった。 「やめてくださっ…あなたには奥さんもお子さんもいらっしゃるのにこんなことダメです…!」 「おうおう、まるで生娘のような反応じゃないか…すごく興奮してきたよ。男同士何も問題ないじゃないか、それに何をされるか期待してるってことは男に抱かれたことがあるんだろう?オホッ、このカワイイちっちゃなサクランボちゃんを男に吸われたことがあるんだろう?」 「うぐぅ…っ」 「ぼいす」の声を聞きながら開発して極度に敏感過ぎてシャツに擦れるだけで痛いちくびを親指と人差し指で潰されると涙が伝うほど痛い、痛くてたまらない。同じ男でも…英護とは全く何もかも違う。 「大人しくしていれば優しく抱いてあげるから、ね?傷つけたいわけじゃないんだ。」 教頭は甘えるような優しい声…梅雨時に肌に張り付くシャツのような猫なで声で数人の顎先を何度も撫でる。 何が傷つけたいわけじゃない、だ。逃げられないよう両手を拘束して馬乗りになっているくせに。
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