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えぴ50
それからほぼ夜に溶けた寒く暗い講義室で、すっぽんぽんの下半身を英護の上着で申し訳程度に隠した埃まみれの数人がしていたこととは…
「…………………。」
無、だった。
目を開けたまま瞬きもせず、ベルトのアザのついた両腕で耳を塞ぎ、呼吸しているかも分からない。
おそらく、きっと今真後ろで隕石が落下しようとも数人は微動だにしないだろう。
まるでお飾りの人形だ。
例え隣の資料室から漏れでた僅かな悲鳴など耳に届いても脳が思考を拒絶した。
「………………。」
後悔や絶望、恐怖、思考など何もない。
ただ時間が経過するのを待つだけの操り人形。英護の指示に従っただけ。傍らから見ればすでに心が壊れてしまったのではないかと思われるほど何もしていなかった。
そうして何分、何時間、すきま風に凍えることも厭わずに時間が経ったのであろう。
すっかり背後の夜は月が上り、幻想的なクリスマスを照らし輝かせていた。
あまりの暗さに戻ってきた英護が電気を点けたことにさえ数人は反応しなかった。
英護の両手がなぜか冷たい水で濡れてることなんて分からなかっただろう。
「安堂さん…」
何かを悟ってか英護の声は静寂に近いほど落ち着きを払っていた。しかしやはり数人には届いていない。
椅子に座る数人の前に膝をつくと、心配そうに見上げることしかできなかった。
「………勝手に入ってきてごめんなさい。安堂さんのメール貰ってからあまりに遅いから探しに来ちゃって…」
敢えて話題を逸らしても無駄なようだった。
多分、目の前に英護が居ることにも気づいていない。完全に心を閉ざした数人を見て英護はボロボロと泣き出した。
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