38人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんっ…なさい…ごめんなさい…!俺っ…何がっ助けるだ…っ!何が…あんたを守る、だ…っ!」
しゃくりながらボタボタと大粒の涙を溢す英護は不甲斐ない自分の太ももを拳でバチンバチン殴る。
「…………。」
「なんでっ…もっと早く来られなかったんだ…っ!俺っが…早く、ぐすっ気づけば…!あと5分っ、早く行動してれば安堂さんもっ…こんなヒドイ目、遇わなくって、ぐすっ…済んだ、かもしれないのにっ…」
「…………。」
英護はその日、もう足が使えなくなってもいいと思っているのかもしれない。容赦なく殴りつける様子を眺めていた数人の瞳にふと光が戻る。
「英護…殴るのはやめてくれ。」
そっと埃に汚れた手を出し、英護の足を守る。互いが互いの痛みを我が身のように感じ取っていた。
「ごめん、なさい…ごめんなさい…」
殴ることをやめさせると赤子のように体を丸めて泣き出してしまう。水で濡れた両手で顔を覆い、ベソベソと泣く英護の背中をゆっくりとではあるが数人は椅子から降り、抱きしめた。
「…………救ってくれてありがとう、英護。」
乱暴にされたせいだろう、数人が座っていた場所、動いた跡、足の間から生々しい出血の道が赤々と残っていたのを講義室の電気が照らす。
それでも数人は英護を恨むことも責めることもなく心から感謝していた。
泣き止まない英護に感謝を伝えようとしていたのか、あやすためだったのか…自然と口から言葉が溢れていた。
「愛してる…英護。」
「数人…さ…?」
予想外過ぎたのか、顔面をぐちゃぐちゃにして泣いていたはずの英護が顔を上げてポカーンと目と口を開く。聞き間違いかもしれない、と首を傾げていると口元だけ無理やり笑みを作った数人が囁く。
「帰ろう、英護。」
ああ、人生初めて楽しみにしていたクリスマスなのに…恋人同士は口付けることもなく、傷ついた体を庇いあい静かに帰路を辿った。
最初のコメントを投稿しよう!