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えぴ51
英護を迎えに行ったあと、帰りの車内でポツリと告げられたのだ。
「安堂さん、今夜時間くれますか?話したいことがあるんス。」
彼は深刻そうというか、何かを覚悟した声色だったもので運転していた数人が握るハンドルにも力がこもった。
「ああ、分かった。」
バックミラーでチラと見た英護の表情は、とてもじゃないが楽しそうにしていなかった。
何か思い詰めている風で、途端に嫌な想像ばかりしてしまう、そんな空気をヒシヒシ肌身で感じていた。
思い当たることと言えば、体の関係だ。
自分のワガママでずいぶん致していない。
それならもう別…れ、ようとか切り出されるのではないか?気になって気になって、気が気でなくて…その後車内では一切の会話が途絶えてしまった。
数人のマンションに到着し、部屋に入ればすぐ話をしてもらえると思っていたものだが玄関入ってすぐ英護の携帯が鳴った。
「なんでこんな時に…」と不満そうに呟いた英護だったが携帯の画面を見た途端に顔色を変えた。ハッとした様子で「ちょっとすみません」と言い残し、再び玄関を出ていった。
あとに残されたのは1人玄関に佇む数人…。
「…………。」
大事な話があったのではないだろうか。
それよりも優先することがあるということはやはり新しい恋人からの連絡だったり…いやいや良くない数人。そうして考えて何になる。
フンフンと頭を左右に振って邪念を飛ばし、久しぶりに1人で廊下を進む。
最近は前か後ろに英護がいて、買い物袋を一緒に携えて他愛ない雑談したり…
「…………。」
ふと、孤独感に涙がポロリ零れてしまう。
「ぼいす」に癒しを求めようかタブレットの仕舞ってあるサイドテーブルに目をやるが、いつ英護が戻ってくるかも分からない。
腕で眼鏡を押し上げ、グシグシと涙を拭って気を紛らせようとお茶を沸かすことにした。
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