えぴ1

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キーンコーンカーンコーン 聞き心地のよいチャイムが鳴る。 教室は学びやの子供たちで溢れ、教科書を出すもの、友だちと談笑するもの、行儀悪く机に尻を乗せるものと多種多様だ。 「次の授業何ー?」 「安堂。」 「ゲ!アンドロイドかよー」 「あいつ昭和からタイムスリップしてきたアンドロイドって噂あるよな、マジ厳しい、時代に合ってない。」 「そうそう、目がギラギラしてるからスマホ見れないし地味に毎日プリント配ってきてダルいー」 「それな、自由にやらせろっつーの。大人は子供のこと何にも分かってないよなー。」 「あ、プリント写させて。」 「やーだよー」 ガラガラ 「ん、ウオッホン」 わざとらしく扉を開けてすぐ大きく咳払いする。1番引き戸に近い席で、そんなに正直に陰口叩かれると気まずいったらありゃしない。 「げ…」 「アンドロイドだ…」 机に足を乗っけていた生徒はバツが悪そうな顔をし、ジリジリと降りて自分の席へ戻る。 漆黒のスーツはフケ1つなく、背筋は90度。艶のある黒髪は襟足で揃えられ、やや浅黒い肌をしているが根っからの本の虫。だがやせ形のヒョロリとした体型と刻まれた眉のシワはいかにも「厳格」な雰囲気を醸し出している。黒縁のメガネを人差し指と親指で正しい位置に戻すと、凛とした声が教室に響く。 「安堂(あんどう)数人(かずと)先生だ。戯れは辞めなさい。」 「ウス…」 「あい…」 彼らが従順なのは先生が怖いから、と単純な理由ではなく「怒らせると面倒」とか「説教ダルい」とかそんなものであることも理解している。自分が厳しい自覚もあるが、そうでなければこの「個性」の束をまとめる帯にはなれない。 まるでロボットのようなスッスとした足取りで教壇に立つと背筋をこれ以上曲がらないほど伸ばし、鋭い眼光で教室を見回す。 彼らなりの抵抗なのか、ゆっくりではあるが徐々に全員が授業を受ける体制を整える。 それを確認してから前の席にいる真面目な学級委員長に声をかけた。 「では授業を開始する。号令を。」 「きりーつ、れーい、安堂先生、授業をお願いします。」 「安堂先生、よろしくおねがいしまーす」 この号令の掛け声が揃う日は来るだろうか?長いこと教師をやっているが、期待はとうにしていない。読み込まれてヨレているが、手入れされた教科書を迷いなく開く。 「教科書225ページを開きなさい。予習のプリントは授業の終わりに回収する。それでは前回の続きから…」 今日も穏やかな日が、過ぎていく。
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