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「あ、お客様こちらへどうぞー」
「!!」
渡りに舟、交代の時間だったのだろう。黒髪の若い青年が数人を呼び止めてくれた。
迷わずタッチダウンを決めるように買い物かごをレジにドンと置いた。顔は上げられなかった。
「点数確認させていただきまーす」
青年の手が見える、まずは焼きのりのバーコードを通し、やはり…て○がで一瞬止まる。
頼むから誰か記憶中枢を振動させ撹乱させてこの記憶を消してくれないだろうか、涙が出そうだ。
若い店員はすぐに我に返り、レジ打ちを済ませる。
「画面のパネルを操作して支払い方法を選んでください。」
「ひゃい…」
それはあまりに弱々しい声で、財布から5000円札を抜き取る指先が震えていた。
現金…を選択する画面で一瞬だけ店員の顔色を窺うべきじゃなかった…。
含み笑いでニヤニヤしており「焼きのりはカモフラージュですよね、今夜これで1発抜くんですよね、2発ですか?」って顔で語りかけている。拷問だ、息することを忘れそうだ。
「あっお客様レジ袋はお付けしますか?」
普段ならエコバッグを持参する数人はレジが混んでいない場合に限り忘れたときは取りに行く。だが今このレジを離れ、購入したものを後ろの客にしげしげ眺められながらエコバッグを取りに行く気力はない。
「ひゃい…」
か細い返事でも聞き取ってくれたらしい。すぐに操作対応してくれた。
「それではもう一度画面を確認してください。」
「ひゃひ…」
支払いを済ませる間に若い店員がスッとて○がを袋に仕舞ってくれた。ありがたい、でも今はその気づかいが息苦しい。
お釣りを受け取ったかどうかもよく覚えていない。とにかく袋を引ったくると顔を覚えられないように片手で口元を隠し、急ぎ店から飛び出した。
こんな羞恥プレイ、もう2度とごめんだ…!
愛車に戻った数人は悶絶し髪をかき回しながらも残り時間がおそらく5分に迫ってることに気づく。
常日頃、生徒にも5分前行動をするよう呼び掛ける数人が遅刻しては教育者としてよろしくない。後悔も、忘れたい記憶も、恥じらいも後だ後!
今はとにかく脳を空っぽにして帰宅を急ごう…!
愛車のハンドルを握る手に力がこもった。
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